マッハ!!!!!!!!


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

農村の信仰の象徴である仏像オンバクの首が盗まれた。村の期待を一身に背負った武術・ムエタイの達人である若者ティン(トニー・ジャー)は、村出身の犯人を追ってバンコクへ行き、数々の敵に出迎えられることになる。


プロットは単純明快、物語のディテールは粗が目立ち、そんなのありかと言いたくなる展開は随所にある。日本語吹き替え版で観たとは言え、俳優たちの演技だってさして優れているとは思えない。しかしこの映画には圧倒された。昨今の高度な映画技術に見慣れた目には、この映画の高度とは言えない映画技術を見せ付けられても、トニー・ジャーの身体能力の高さ、格闘技家としての高度な技術には目を見張るしかない。とにかく彼の動きを観よ。そもそも物語というよりも、彼の動きを見せるためにこさえた見せ場の数珠繋ぎとでもいうべき映画だが、これはこれで十分入場料金を支払う価値がある。


誰もが指摘するように、この映画はジャッキー・チェンの、それも黄金期の代表作である『プロジェクトA』(1983)の影響が強いのは明らかだ。前半にある、ごみごみした狭い路地裏をチンピラどもに追いかけられる場面でのコミカルな小道具の使い方など、思わずにやりとさせられる。しかしそれが単なるオマージュや真似でないのは、ジャッキーとはまた違う、スタントマン出身というトニー・ジャーのアクロバティックな身体の動きがあるからだ。トランポリンやワイヤーなど使わずに自動車の屋根を飛び越え、鉄条網の輪っかや板ガラスの間といった狭い場所をするりくぐり抜け、柔軟ですばしこい動きは、格闘家というより軽業師のよう。映像は彼の動きを追い、一度ノーマルスピードで見せてから、再度角度を変えてスローモーションで見せてくれる念の入りようだ。スローモーションの挿入もしつこくない程度なので、アクション場面での流れが阻害されていない。これはブラッチャヤー・ピンゲーオ監督の撮り方や編集が、意外にもしっかりしているからだ。


軽業を見せてくれた後には、待ってましたとばかりに格闘場面の連打。ジャッキー映画と違って動きを早回しせずに、目にも止まらぬ早業で次から次へと正確無比に繰り出される技の数々を容赦無く叩きつけ、獰猛な黒豹の如くしなやかな躍動を映し出したスクリーンを観るにつけ、人間の肉体の限界に挑戦しているアスリートを目撃するのと同種の感動を覚えてしまう。脳天に膝を入れ、フルフェイスのバイク用ヘルメットを叩き割り、炎の中から飛び出して燃える脚で蹴りを繰り出し、とジャーは大変な奮闘振り。これは彼のアクションもさることながら、受身のスタントマンたちも相当に優秀なのだろう。しかも本気で相手に肘や膝をぶちかましているのですから、観ているだけでも痛そうだ。全体にアクションのシリアスな捉え方は、ジャッキー・チェンよりもブルース・リーからの影響が強いように思えた。だからなのか、トニー・ジャーがいつも険しい表情をしているので、リーだってもう少し笑っていたのだから、ジャーにも笑顔が欲しかったところである。


格闘技だけでは観客を退屈させるかも、との配慮なのか、バンコク市内でのカーアクションも用意されている。それも普通の乗用車を使ったものではなく、トゥクトゥクという三輪タクシーでのカーチェイスなのが土地柄を生かして宜しい。今までに無いものを、というこだわりと熱い心意気が伝わって来る。また、縄で浮きに留められて水中に浮かぶ数々の仏像を写したショットは、ファンタスティックな風情がある。こういった部分も含めてこの映画で面白いのは、国民の95パーセントが仏教徒というタイ映画だからなのか、あちこちにその刻印が散りばめられているところ。そもそも盗まれた仏像という発端からしてそうだし、クライマクスで形勢不利な主人公に力を与えるのは、やはり仏様なのだ。


世間的にはゲテ物映画なのだろうが、人間の肉体の放つ驚異的アクションに彩られた活劇として、一見をお勧めしたい作品。


マッハ!!!!!!!!
Ong-Bak

  • 2003年/タイ/カラー/108分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated R for sequences of strong violence, language, some drug use and sexuality.
  • 劇場公開日:2004.7.24.
  • 鑑賞日:2004.8.12./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘4 ドルビーデジタルでの上映。木曜20時50分からの回、175席の劇場は4割程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.mach-movie.jp/ 「マッハ!ココが凄い!」「炎の特集十番勝負」「炎の暑中見舞い」など、アツいタイトルのコンテンツ満載。動画でトニー・ジャーの動きも見られる。そのジャー兄さんの来日インタヴュー動画あり。