ニューオーリンズ・トライアル


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ニューオリンズで行われる銃器会社に対する訴訟。莫大な資金力を有する被告側は悪辣な陪審員コンサルタントジーン・ハクマン)を雇い、自らに有利な陪審員の選別や、陪審員に対して圧力をかけようとする。やがて謎の女(レイチェル・ワイズ)が現われ、被告側と原告側弁護士(ダスティン・ホフマン)に、陪審員の票を買わないかと持ちかける。彼女は陪審員の若者(ジョン・キューザック)と組んでいるらしい。果たして彼らの目的は? 裁判の行方は?


当然のことながら世の中には色々な職業があり、初めてその職業を知ると驚くことがある。陪審員コンサルタントなどというのもそうだった。ご存知の通りアメリカの裁判は、一般市民から選ばれた陪審員によって評決が下される。その評決を左右させようとするコンサルタントがいるとは。まぁ実際にはこの映画で誇張されているような、裁判を左右するような悪辣な妨害工作を行う職業、などが存在するとは考えたくはないが。そういったいかがわしい人物を演ずるのが、憎々しい演技も天下一品のジーン・ハックマン。対する正義派弁護士も役に似つかわしいダスティン・ホフマン。この大ヴェテラン2人の激突に対する期待もあって、法廷スリラー映画としての掴みは成功している。


掴みと言えば、映画の冒頭にいささか衝撃的な事件を配することによって、観客を引き込むことにも成功している。最近、余り映画では観なくなっていたと思っていたら、向こうではテレビ・シリーズの主役を張っているディラン・マクダーモットをクレジット無しで登場させ、つまりは向こうでは誰もが知っているスターを登場させる計算もしたたかだ。


しかしこの映画、法廷場面での激突が眼目ではない。法廷外での火花散る頭脳戦が物語を進める。実はこの映画の主役は、何やら目的がありそうな陪審員ジョン・キューザック)と、謎の女レイチェル・ワイズの2人なのだ。彼ら2人と、原告側被告側を両天秤に架けての頭脳戦、特に被告側と若い2人が互いに尻尾を掴まれまいとする闘いがメインのスリラーなのである。


ジョン・グリシャムの原作『陪審評決』ではタバコ訴訟だったのを、銃器訴訟にしたというダスティン・ホフマンのアイディアも上手い。映画は原作のプロットと幾つかの場面を拝借しながらも、思い切って陪審員達のドラマを削除し、コンゲーム主体のスリラーに収斂させている。そのお陰で、かつて『フラッシュダンス』(1983)で一斉を風靡したジェニファー・ビールスまでもが、台詞も一言二言しかない陪審員役に甘んじている、などという寂しさもあり、また陪審員側のドラマを削除したために、スケール感もかなり減退してはいる。


主役のジョン・キューザックは何を考えているのか分からない表情が持ち味で、それがこの映画に合っている。果たして彼は善人なのか、それともワルなのか。彼とレイチェル・ワイズの若手(といっても、もう中堅どころか)が、老獪な大ヴェテラン相手に奮闘するのは見ていて楽しいものだ。さすがにダスティン・ホフマンは手馴れた感じで、やり手の人権派弁護士という雰囲気がよく出ている。ホフマンの起用により、原作ではただの脇役だった弁護士が正義派の象徴として登場するのもすっきりして気持ち良いものだ。しかし悪の大ボスとして君臨するハックマンの存在感はやはりと言うか、如何にも憎々しげな怪演で、出るとその場をさらってしまう。


ゲイリー・フレダーの演出は全体にテンポが速く飽きさせないが、芸達者な役者を配した割りに、演技をじっくり見せるよりも、キャメラをやたら動かし、それを細かいショットにして繋ぐ編集に腐心している。スリラーとして緊迫感を盛り上げようとする意図は分かるものの、もっと役者の力を信じるべきだったろう。役者の発する緊張とそれを受け止めるべき観客の間に、映像がうるさく割って入っているのだ。だからこの映画で一番見応えがあるのが、余りキャメラを動かさずに撮った、ハックマンとホフマンが裁判所のトイレで対決する場面、というのは皮肉なものだ。また駆け足過ぎるせいか、原告側に付く陪審員コンサルタントという人物を、生かし切れていない恨みも残る。


と、色々難点はあるもの、原作では希薄だった「正義は金で買えるのか」というテーマをくっきりさせ、娯楽スリラーとして面白く作っている映画ではある。


ニューオーリンズ・トライアル
Runaway Jury

  • 2003年/アメリカ/カラー/128分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for violence, language and thematic elements.
  • 劇場公開日:2004.1.31.
  • 鑑賞日:2004.2.1./ワーナーマイカルつきみ野7/ドルビーデジタル 映画の日の日曜13時00分からの回、199席の劇場は約半分割りの入り。
  • 公式サイト:http://nt.eigafan.com/ 映画紹介、予告編、クリップ集、壁紙など。そこそこ話題作としては平均的な作り。