スイミング・プール


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

人気ミステリ作家サラ・モートンシャーロット・ランプリング)はライターズ・ブロックに陥っていた。出版社社長(チャールズ・ダンス)の薦めにより、プロヴァンスにある彼のプール付き別荘で気分転換することになる。静かで温か、快適な場所で、これで仕事に集中出来ると思うも、社長の娘と名乗る若いジュリー(リュディヴィーヌ・サニエ)が現れ、平穏は破られる。


まぼろし』(2000年)、『8人の女たち』(2002年)がヒットしたフランソワ・オゾン監督の新作は、これが捻ったミステリタッチの心理劇。僕はこの監督の映画を初めて観て、中々楽しめた。


サラはロンドンの曇天そのまま、服装も地味で野暮ったく、暗く神経質で刺々しい女として登場する。地下鉄内で「あなたのファンなの」と声を掛けられても冷たく「人違いでは」と突き放し、新人作家の売り出しに懸命な社長相手に、新人作家を小僧呼ばわりする。南仏に渡ってからは陽光を浴びて解放感に浸るものの、静寂を打ち破る闖入者に眉をひそめることになる。


サラとジュリーの衝突は世代間のものだけではなく、個性と個性のぶつかり合いでもある。


ジュリーはサラと対照的に明るい娘。毎晩、街で捕まえた男を連れ込んで嬌声を上げ、裏表無く開けっぴろげな態度で振舞う。そんな様子を見てサラは最初は不快に思うものの、やがて彼女をモデルにした小説を密かに書き始めることになる。


痩せてごつごつと骨っぽく、背が高く、何物にもたじろがなさそうな冷たい目付き、しかしどことなく品があるランプリング。小柄で小悪魔的、とろんとした目元に幼い顔付き、肉感的な身体を持つサニエ。この対照的なキャスティングが作品の肝。2人がお互いに反発し、影響を受け合い、少しずつ変化していく様が面白い。特にランプリング演ずるサラの変化が顕著だ。


ジュリーについて調べていくに連れ、サラは外見から変わっていく。物語のペース配分よりも、ゆったりした心理描写重視なのがフランス映画らしい。ジュリーに感化されたかのように、服装はカジュアルでちょいと洒落た軽いものになり、地元の男の目線を捕らえていくようにさえなり、遂には服を脱ぎ捨て男を全裸で誘惑さえしてしまう。齢60近いこの女優の度胸には感嘆するしかなく、それはともかくヒロインの心理を一連の流れとしてさりげなく演じている様はあっぱれ。これはランプリングを観る映画でもある。


宣伝で大きく取り上げられているプールサイドでの殺人事件が起こるのは、映画の終盤になってから。だからそれ目当てのミステリを期待すると当てが外れるだろう。しかし主人公の微妙な心理とその変化を謎めいて描きつつ、それを終盤で幾通りもの解釈が出来るような大技でひっくり返す様には唖然とさせられてしまう。そこに突如するりと入り込むのは、作家にとっての現実とは何か、というテーマ。人を食ったかのようなこのエンディングを観るにつけ、オゾンのくすくす笑いが聞こえて来るよう。才気溢れる監督の若々しさと早くも老練な手腕を観る楽しみが、ここにはある。


ヨリック・ルソーの撮影は、重苦しいロンドンの空気に始まり、プロヴァンスの心地良い陽光、青く透き通ったプールと、色彩と質感の表現が優れているし、フィリップ・ロンビの音楽は妖しさを一層盛り立てていて、見もの聴きものとなっている。


スイミング・プール
Swimming Pool

  • 2003年/フランス、イギリス/カラー/102分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong sexual content, nudity, language, some violence and drug use.
  • 劇場公開日:2004.5.15.
  • 鑑賞日:2004.7.11./シネマライズBF ドルビーデジタルでの上映。金曜10時05分からの回、220席の劇場は20人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.gaga.ne.jp/swimmingpool/ プロダクション・ノート、キャスト&スタッフ紹介、BBSなど。