スパイダーマン2


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

苦学生スパイダーマンという2足のワラジを履くピーター・パーカー(トビー・マグワイア)は、最近疲れ気味の様子。肝心なスパイダーマンのときにも、時々パワーが出ないときがあるのだ。ヒーロー稼業が忙しい彼は、バイトをクビになり、大学の単位が危うくなり、さらには密かに恋心を抱く幼馴染のMJ(キルスティン・ダンスト)にも振られてしまいそう。そんな中、天才科学者ドクター・オクタビアス(アルフレッド・モリーナ)は事故により怪人ドック・オクと化し、都市を危機に陥れる。そしてオクタビアスのスポンサーだったピーターの親友ハリー(ジェームズ・フランコ)は、スパイダーマンを父の仇と憎み、ドック・オクにある話を持ちかけるのだった。


大ヒットした前作は悩める等身大のヒーロー誕生を描いていた。同じくサム・ライミ監督作品による続編は、悩める等身大ヒーローの成長を描いていて、それなりに面白かった前作を凌ぐ出来映えとなっている。


オープニング・クレジットは前作同様のクールなデザイン。アメコミタッチで前作の内容紹介もしていて、おさらいであると同時に続編への期待感を煽るのが嬉しい。ダニー・エルフマンのドコドコ音楽も盛り上がり、さぁ掴みはオーケーだ。


序盤からスパイダーマンの活躍を描く、目もくらむようなアクションは大画面映えする。手首から蜘蛛の糸を出して摩天楼の空間を高速で飛び移る超人技の連発は、最初観たときの新鮮さこそ薄れつつも、意外なまでに鮮度を保っている。リアリズムよりも爽快感重視の特撮の方針は正しかったと再認識させられる。それに何より、CGI多用の大ヒット作の続編であっても、主人公ピーターの青春ドラマという視点が忘れられていないのが有り難い。己の容量の悪さがピーター・パーカーとしての人生を圧迫していく様を、丁寧かつコミカルに描いているので、楽しめると同時に主人公に十分感情移入できるものとなっている。


人は誰でも他人に認めてもらいたいというもの。なのにピーターは正体を隠してスパイダーマンとして活躍しているのにマスコミに叩かれ、ヒーロー稼業で忙しい為に自分の才能を活かす場である大学生活も、MJとの関係も、危機に瀕してしまうのだ。他人を救って自分を救えないピーターのフラストレーションが溜まるのは当然だろう(『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004)といいこれといい、最近のヒーローは怒りを溜め込み気味なようだ)。だからヒーローであることに疲れ、嫌気が差し、遂にはある決断をしてしまうのも納得してしまう。ピーター役トビー・マグワイアは相変わらず朴訥としていて頼りなさげ。一見すると無表情に見える表情や、困ったときもつい薄ら笑いを浮かべるところが、自分を押し殺してしまうピーター・パーカーにぴったりだ。


日陰の存在であるピーターと対照的に、ドクター・オクタビアス博士は正に輝ける存在。人格者の彼はピーターに「才能は贈物だ。世の中に役立てるべきだ。」などと言うが、核融合実験の失敗により、人工知能を持つ4本の金属製の触手に乗っ取られた狂える天才となり、街を恐怖に陥れる。演ずるアルフレッド・モリーナは正に適役。地味な演技派の彼が、こんな超大作の悪役として輝こうとは思ってもいなかった。善悪両面で魅力を振り撒き、その存在感は前作のウィレム・デフォーを凌ぐ。


サム・ライミの演出は、キャリアの中で再度己の個性を打ち出す方向が強まってきた。『死霊のはらわた』シリーズ(1981-1993)や、『クイック&デッド』(1994)など、一番威勢が良かった頃のあの勢いを取り戻しつつあるようだ。捻りの効いたユーモアに妙なキャメラワークが随所に表れ、盟友ブルース・キャンベルも顔見せ出演。過去のマニアックな作品を楽しんできた観客を喜ばせる。こうして自らの色を出した映画で戯れつつも、ヒーローの苦悩と挫折、そして復活までを、きちんとした手綱さばきでがっちり描き、アクションのスリルと迫力でカタルシスを満喫させ、高額の製作費を掛けた期待値の高い超大作としてよりパワーアップして、不特定多数の観客を喜ばせることを忘れていない。こうしたところに「大作も撮れるオタク監督」ライミの成長が伺える。


終盤における意外なスターの出演や、次回作へと繋がるであろう幾つもの新たな展開など、製作陣はこれからもやる気満々の様子。ラストにおけるキルスティン・ダンストの顔のアップを見るにつけ、まだまだヒーローの悩みは尽きることがないようだし。悩み好きなヒーローの次回作に期待しよう。


スパイダーマン2
Spider-Man 2

  • 2004年/アメリカ/カラー/127分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for stylized action violence.
  • 劇場公開日:2004.7.10.
  • 鑑賞日:2004.7.10./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1 ドルビーデジタルでの上映。土曜21時00分からの回、452席の劇場は満席。
  • 公式サイト:http://www.spider-man.jp/ 予告編、スクリーンセーバー、壁紙などの定番もあるが、ここだけでしか読めないコラムが面白い。UFJスパイダーマン・ザ・ライド体験記、字幕翻訳家インタヴュー、グッズコレクターなど。第6回は「字幕派? 吹替え派?」と題し、吹き替え版演出家へのインタヴューや、声優たちからの一言コメント&顔写真がある。銀河万丈の顔なんて珍しいかも?