ビッグ・フィッシュ


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

大ボラ吹きの父エドアルバート・フィニー)の存在を疎ましく思い、結婚後はその父と疎遠になってしまった息子ウィル(ビリー・クラダップ)の元に、母(ジェシカ・ラング)から連絡が来る。エドが病気で余命僅かだ、と。妊娠中の妻と共に故郷に戻ったウィルは、残された時間で父親を理解できるのだろうか。


ティム・バートンの新作は、またもやエドワードと名の付く主人公の物語である。『シザーハンズ』(1990)しかり、『エド・ウッド』(1994)しかり。今のところ「エドワードもの」は全て成功作となっている。この映画もその例に漏れなかった。


映画の構成はエド最期の日々である現実と、彼が喋るホラ話の数々が並行して描かれていくものとなっている。名優フィニーの頑固だけれでもユーモラスで憎めない父親と、その若き姿をユアン・マクレガーが快活に演じるという意外なキャスティング。フィニーの若い頃がマクレガーに似ているということで決まったこの組み合わせが、映画に落ち着きと明るさを与えている。


上映時間の多くを占めるホラ話パートはいちいち奇想天外で、こちらの予想通りに面白い。身の丈4メートルはあろうかという巨人に、フリークスのサーカス団、狼人間に魔女と、登場人物の多彩さにも事欠かない。ダニー・デヴィートスティーヴ・ブシェーミといった奇妙な顔立ちの俳優たちも、奇妙なバートンの世界に違和感無く染まっていて楽しませる。また、一目惚れにより時が止まり、中に浮いたままのポップコーンをかき分けながら進む場面や、画面いっぱいに咲き乱れる水仙を使った求愛場面など、バートンらしいロマンティックな趣味も生かされ、出色の出来映えだ。


対する現実場面は枯れたタッチで描かれ、早くもバートンは成熟してしまったのかと思わせる。フィニーとラングが服を来たままで浴槽に入るくだりなど、ロマンティックで悲しく、素晴らしい。夢想家の父に反抗して、現実を見つめる職業であるジャーナリストとなった息子の描写も、地に足が着いている。演ずるビリー・クラダップも地味ながら真摯な好演をしていて、時間にすれば短い現実場面に真実味を与えている。


それにしても、ダニエル・ウォレスの原作があるとはいえ、いわゆる「串ダンゴ式」と呼ばれるエピソードを単に羅列しただけのような脚本は、左程出来が良いとは思えない。ホラ話も前後の関連に余り関係無く語られるのみなのだから。父親は何故ホラを語らねばならなかったのか、という肝心な点が明かされ無いのは、最期に息子が父親に歩み寄るのに対し、ツボを外していると言わざるを得ない。


それでもこの映画は、バートンの代表作の1つになったと言えよう。バートンは童心いっぱいのホラ場面と、落ち着いた現実場面を同時に1本の映画にまとめあげた。ファンタシーの中の現実、現実の中のファンタシーを抜き出し、クライマクスではファンタシーと現実の融合を成し遂げ、高揚感と泣き笑いの感情を観ている側に起こさせ、映画に浸る幸福まで実感させる。父と息子だけではなく、本来相反するものであるおとぎ話と過酷な現実との和解までさせてしまった。夢想家バートンの「何を信じるべきか」というメッセージ性が力強く打ち出され、感動的だ。


ビッグ・フィッシュ
Big Fish

  • 2003年/アメリカ/カラー/125分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for a fight scene, some images of nudity and a suggestive reference.
  • 劇場公開日:2004.5.15.
  • 鑑賞日:2004.5.29./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘6 ドルビーデジタルでの上映。土曜14時50分からの回、170席の劇場は約9割程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.big-fish.jp/ ホラ話を海外の絵本作家が書いたコンテンツ「FATHER'S TALE」が面白い(FLASHプレイヤーが必要)。英文のみだが簡単だし、映画本編とはまるで違うタッチの絵を楽しもう。予告編、壁紙、Eカードなどもあり。