レディ・キラーズ


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

信心深い黒人の老婦人(イルマ・P・ホール)の元を訪れた教授(トム・ハンクス)は、老婦人宅の空き部屋を借りる。教授は古学音楽演奏仲間と名乗る数人の男たちを紹介し、宅の地下室を借りて古楽演奏の練習をしたいという。実は彼らの正体は犯罪者で、地下トンネルを掘ってカジノの金庫から大金を強奪しようとしていたのだ。


1955年の名作ブラック・コメディ『マダムと泥棒』(1955)をコーエン兄弟がリメイク。新機軸は、いつもジョエルのみの単独監督扱いで、イーサンは製作者扱い。それがコーエン兄弟初の共同監督扱いになっている! って、実際は今までも共同監督・脚本なのだけれど。とまれ前作『ディボース・ショウ』(2003)から1ヵ月半で新作が観られるというのは嬉しいことである。


アレック・ギネスピーター・セラーズが主演したオリジナル版は未見だが、名作リメイクは外れが多いという通説通り、そして残念ながらコーエン兄弟作品としても面白味の少ない映画になっている。その理由の1つに、これが殆ど笑えないことが挙げられる。ワルどもが純真な老婦人に翻弄されて自滅していくというメイン・プロットは、幾らでも面白くなりそうなものなのに、その自滅パターンの半分が仲間割れというのは如何にも味気ない。全体的にブラック・ユーモアとしてもパンチが効かず、教授の仲間連中もアタマの悪さばかりが目立つ割にさほど可笑しくも無く、造形も今一つ冴えない。もっとも犯罪者の1人、やたらとフォー・レター・ワードを連発する口汚い男役マーロン・ウェイアンズなどは、ネイティヴの人にとってはかなり可笑しいのではないかと想像出来るが。素材には事欠かないのにシェフの腕が鈍ったのだろうか。コーエン兄弟作品には、凝ったつもりの作り込みが時折裏目に出て、かえって可笑しくなくなってしまうことが今までもあったが、今回は全体にあっさりと気が抜けたような作りなのも気になる。その分、箱庭的息苦しさも減ったのは吉と出た言うべきか、それとも凶と出たと言うべきか。


それでも主役2人は見ていて楽しい。トム・ハンクスはポーの詩を唱えたりでスノッブふんぷん、時折見せる不気味なせせら笑いに、イヤらしさと小心さ、卑劣さを漂わせたインテリぶった正体不明の犯罪者を、嬉々として気色悪く怪演している。最近の『ロード・トゥ・パーディション』(2002)でも、善良なるアメリカ市民からのイメージ・チェンジ脱却を図っていたのが記憶に新しく、今回の役柄もその延長上なのだろか。仕立ての良い白いスーツに帽子、口髭という古めかしい出で立ちも、非常に胡散臭くて宜しい。一方のイルマ・P・ホールは純粋なのだけれど、ちょっと頑固なところもある老婦人を演じていて、迫力ある体型と共に演技力でも存在感満点。下卑たハンクスと好対照の品の良さを映画に与えている。この人初めて観たが、こういった昔ながらの憎めない頑固お婆さんの典型を演じ切れる人も、まだまだいるのですな。


じゃぁお楽しみは主役2人だけなのかというと、幸いにもそうではなかった。映画全体に塗されたゴスペルが聴きものとなっているのだ。特に幾度か挿入される、老婦人が通う教会でのゴスペル演奏場面が素晴らしい出来で、思わず身体が動き出しそうになる。劇中で一番面白い趣向で、コーエン兄弟はこれに惹かれて映画を撮ったのではないかと勘繰りたくなるくらい。力強さに溢れた神への賛歌をエンドクレジットでも映像付きでたっぷりと聴かせてくれ、お陰で映画の印象もそう悪くないものとしてしまったくらいだから。


レディ・キラーズ
The Ladykillers