ドーン・オブ・ザ・デッド


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

生ける死者に噛まれた者は、死亡後に自らも生ける死者となり他の生者を襲いだす。原因不明の凶事により混乱に陥った世界で、看護婦のアナ(サラ・ポーリー)は少数の人々と共にショッピング・モールに立て篭もる。


When there's no more room in hell, the dead will walk the earth.


言わずと知れたジョージ・A・ロメロ監督・脚本による、リビング・デッド・トリロジーの第2部である『ゾンビ』(1978)のリメイク作品は、ゾンビの大量発生による人類破滅と、生き残った人々がショッピング・モールに篭城する設定以外は、全くの別物だ。早速ネットでは『28日後...』(2002)も真っ青の、常に全力疾走なゾンビについて賛否両論真っ二つ。そのゾンビの描写も含めて、名作・傑作として名高い、未だに人気のあるオリジナル版との比較は避けられないのは宿命である。


映画の冒頭15分は全くお見事。異変が起きつつある予兆をそことなくはらませ、不安を滑り込ませつつも、ある朝起きてみると世界は崩壊していた・・・という様子を的確に描いている。無駄な描写を一切省き、ヒロインを見舞う怪異でもって、一気にショックとサスペンスとスリルのある展開に持っていく。辛くも自宅から脱出した彼女が乗った車を延々追う空撮によるショットも素晴らしい。空の高みから彼女の車の近くで車両同士で衝突事故を起こす様子を捉え、事故原因は運転の単なる誤りなのか、それとも生者が死者に襲われていたのかと想像させる、ホラー映画に相応しいスペクタキュラーな映像。こうした映画の導入部は、最近のいわゆるジャンル映画の中でもかなりの出来映えだ。


このようにテンポ重視の滑り出しは好調だが、映画全体もアップテンポにしたために、オリジナル版にあった要素が殆ど削ぎ落とされてしまったのは残念である。確かにオリジナル版はアクション映画としてはリズム感に乏しく、2時間以上もある上映時間も含め、今見れば鈍重な感が否めないだろう。しかしその弛緩した時間に織り込まれた文明批評、人間批判といったテーマそのものや、生者の生肉を求めてさまよう生ける死者の哀しみといった詩情が、作品を重層的に受け止めることができた。ゾンビへのパイ投げといったユーモアや、ゴブリンによる重くのたくった変拍子ロック音楽が煽る終末感もひっくるめて、奥が深い、様々な魅力を内包した作品だったのだ。これらの要素を削ぎ落としてまでもテンポを重視にしたところに、今回の製作者側の意図が見えようともいうものである。


混乱に陥った世界での人間ドラマ部分も、上映時間が短くなったのに対して登場人物が大幅に増えた為、印象が薄くなっている。噛まれたゆえに生ける死者となってしまう悲劇的な場面も幾つか用意されてはいるものの、情感が湧かないのも全体にアクションとスリル重視の構成になっているから。この映画では登場人物は飽くまでも記号にしか過ぎないようだ。


折角ショッピング・モールという魅力的な舞台を継承したのだから、侵入しようとするゾンビとの攻防戦を描く手もあった筈。折角電ノコを用いるのであれば、嫌悪感を煽る事故場面を入れるより、もっとゾンビをぶった切れと言いたくなる。活用し甲斐のある大道具・小道具を持ち出しても中途半端な扱いになっているところに、詰めの甘さが見受けられる。


エンドクレジットに被せられた「物語のその後」を描いた映像の扱いも上手くない。わざわざ追加撮影してまで付け足す必要があったのだろうか。オリジナル版はおろか、その模倣作である『サンゲリア』(1979)でさえ、不穏なエンディングという点でもずっとスマートだった。この安っぽい趣向は蛇足そのものである。


このように数々の欠点がありつつも、それでもこの映画は楽しめる出来となっている。次から次へとスリルとショックを叩き出し、特に後半は「良かれと思っていたことが、全て裏目に出てしまう」展開で畳み掛け、アクションとホラーの融合という点ではオリジナルを凌駕している。先に述べた序盤の空撮や、ゾンビでぎっしり埋め尽くされた広場を武装した装甲バスでゆっくりと進む映像など、これが監督デヴューとなったザック・スナイダーのスペクタクル描写が冴えている個所も少なくない。その一方でストロボ映像や細切れ編集多用のアクション場面は、何がなにやらよく分からないときもあるので、いかにも最近の悪しきアクション映画といった風情もある。


話題の走るゾンビに関して言えば、娯楽映画としてのスリルを高める点で効果的に作用している。オリジナル版ではゾンビに襲われる恐怖だけではなく、自分も生ける死者となる恐怖も描かれていた。しかし今回はソンビは飽くまでも襲われることのみが恐怖である、と割り切って描かれているので、これはこれで悪くない。


欠点かどうかは別として、ホラー映画としてのオリジナル版との最も大きな違いは、ゾンビが人間の内臓までもほふる描写が全く無くなったこと。レイティングの問題もあるのだろうが、人間そのものの存在に対する厳しい視線が感じられたオリジナル版と、その視線が殆ど無い、間口を広くして完全に娯楽映画として作られたたリメイク版、との違いにもよるのではないだろうか。


ドーン・オブ・ザ・デッド
Dawn of the Dead

  • 2004年/アメリカ/カラー/98分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for pervasive strong horror violence and gore, language and sexuality.
  • 劇場公開日:2004.5.15.
  • 鑑賞日:2004.5.15./ワーナーマイカルシネマズつきみ野3 ドルビーデジタルでの上映。公開初日土曜13時からの回、138席の劇場は約40人の入り。都心では劇場によっては立ち見も出たらしいが。
  • 公式サイト:http://dotd.eigafan.com/ 予告編、TV-CF、一番怖いものは?と訊かれて「ジョージ・ブッシュ!」と答えるサラ・ポリー来日記者会見など。そういやこの人、十台半ばで政治活動で逮捕されたことがあったな。「感染者リスト」というのがあって、見てみると一般公募の写真が。それらしき写真もあるが、どう見たって単なる「はいポーズ」なもものいっぱいあるのが可笑しい。こういった企画を見るにつけ、配給会社(サイト製作会社か)も色々と考えるものだなぁ、と思うことしきり。
  • 冒頭10分が観られるサイト:http://www.zombie-nation.net/dotd10.html この映画、北米では冒頭10分間をノーカットでCATVで流すという大胆な宣伝を打った訳だが、それが流出しているらしい。日本でも国内数箇所の街頭で流したとか。横長に変形しているし、画質も音もひどく、日本語字幕も無いけれど、興味のあるかたは是非。今観直してみても、やはり掴みはオッケーですな。上で述べた空撮による交通事故ショットもあり。
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