スクール・オブ・ロック


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

自分だけいい気になってステージで勝手に独りで盛り上がるため、客はおろかバンド仲間からも見放されたデューイ(ジャック・ブラック)は、収入も無いので友人とシェアしているアパートからも追い出されそうになる。しかしひょんなことから代理教員である友人に成りすまし、名門小学校に勤務することに。授業もせずに教室にいるだけで給料がもらえると喜ぶデューイだが、そこの音楽授業を見て閃いたのが、子供たちを使って自分好みのロック・バンドを結成すること。かくして授業時間を乗っ取り、子供たちにロックの真髄を叩き込むのが始まる。


これは、チビでデブで目立ちたがり屋でシャウトなロック野郎の、黒髪を雄々しく震わせて大熱演のジャック・ブラックあっての映画である。実際、この映画の面白さの殆どは、主人公デューイの不謹慎な動機と行動、それにデューイ役ブラックの快演によるところが大きい。テンション高くアドリブびしばし、「ロックとは何ぞや」と子供たち相手に熱弁を奮い、いい歳して反体制派をきどっていつまでも夢を追い掛ける、押し付けがましくも騒々しい、いわば現代社会の落伍者、負け犬、Loser。その姿はデューイという男を架空と感じさせない、ジャック・ブラックの演技と感じさせない、まるでブラックそのものであるかのよう。しかし不思議なことに、主人公は暑苦しいヤツの筈なのに映画は左程そうとは感じさせない。自らを負け犬であることを自覚しつつ、それでもやりたいことをやるんだ、という主人公のがむしゃらな開き直りとパワーが、作品に爽快感を与えているのだ。


代理教員である冴え無い友人役でもあるこの映画の脚本家マイク・ホワイトは、友人でもあるブラックを主役に想定して書いたとか。その視線は負け犬パワーの権化のような主人公だけでなく、様々なコンプレックスを持つ子供たちにも向いていて、仄かに優しい。デューイはそんな子供たちの才能を目覚めさせ、自信を付けさせる。破天荒なようでいて、これって王道を行く学園ものじゃないか。対するジョーン・キューザック演ずる厳しい校長の扱いも現実味があり、こちらの予想を裏切って単純な敵役におとしめていない。登場人物に対する優しい視線が、彼女に対しても変わらないのが良い。こういったバランス感覚が映画を印象良くさせている。


主人公のデタラメなパワーは非常に面白く、いや実際かなり笑わせてくれるのだが、残念なことに監督のリチャード・リンクレイター(『恋人までの距離(ディスタンス)』(1995))は根が真面目な人なのか、余りコメディを分かっていない様子。普通の教室でロック・バンドの練習をしたら音漏れがガンガンする筈だろうに、そういった設定を生かしてもっと笑いを取っても良いのに。その場しのぎの防音大作戦とか、見張り係を使ったギャグの1つや2つは入れたまえ、と言いたくなる。まぁ元々の脚本自体、ブラック個人の面白さに寄り掛かったものであって、細かいギャグには余り興味が無かったのかも知れないが、詰めの甘さがコメディ映画として勿体無い。


それでもこの映画には不思議なパワーがある。ブラック自身に引っ張られるかのように、特にクライマクスのバンド・オーディション場面は盛り上がる。この燃えっぷりを見よとばかり、映画全体に熱い血がたぎるのだ。だからその直前にある、ご都合主義で強引な、それこそお子様騙しの展開も許せる気になるのである。


映画が最高潮を迎えた後には、思わず脚でリズムを取ってしまう、嬉しくなるようなエンド・クレジットが。これはお目に掛かったことの無い、新しいパターン。架空の物語と現実の映画製作との幸福な融合により、デューイとブラックの境界線が益々曖昧になっていて、お陰で楽しく余韻に浸れる。


変形学園コメディとして、一見をお勧めしたい映画。



スクール・オブ・ロック
The School of Rock

  • 2003年/アメリカ/カラー/110分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for some rude humor and drug references.
  • 劇場公開日:2004.4.29.
  • 鑑賞日:2004.5.3./ワーナーマイカルシネマズつきみ野3 ドルビーデジタルでの上映。ゴールデンウィーク真っ只中の月曜夜21時10分からの回、186席の劇場は5割の入り。
  • 公式サイト:http://www.schoolofrock-movie.jp/ 予告、壁紙など。「スクール・オブ・ロックな先生大募集!!」という、あの人が先生だったら良い!という応募企画あり。「星野 仙一 熱いっす!」、「養老 孟司 ロックな授業をしてくれそうだから」なんてコメントも。シーナ&ロケッツ飛び入りのジャパン・プレミアの様子なども軽く紹介。「ロックの予備校」というMSNのページへのリンクもあり。