キル・ビル Vol.2


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

愛する家族を奪った憎き標的は残り3名。凄腕の元殺し屋ザ・ブライド(ユマ・サーマン)は行く手を阻まんとする敵を次々と打ち破り、一歩一歩、組織のボスであるビル(デヴィッド・キャラダイン)へと近付いていく。明かされてゆくビルとザ・ブライドの関係は? そして復讐の決着は如何に?


前作はクエンティン・タランティーノ作品としては、いつにも増して賛否両論に分かれた映画だった。手放しで喜ぶ人も多かった一方で、血塗れ残酷描写や自分の趣味を爆発させた上、お得意だった筈の人物描写を削った為、脚本家・監督としての後退を責める向きが多かったのだ。しかしそこは食わせ者、タランティーノは今回はガラリと作風を変えた。映画を早いテンポにするつもりはさらさらなく、登場人物は自らのキャラクターを浮き彫りにすべく長台詞をとうとうと語る。その台詞がいちいち面白いとはタラらしい。いつものマシンガン・トークは影を潜めつつも、腐りかけた魚のように生臭くなることなく、イキが良い。特にビルが終盤に述べるスパイダーマンとスーパーマンに関する長口上が最高で、演技と相まって台詞のリズムが魅惑的。かねてからタランティーノ作品に対して、長台詞は面白いのだけれども、どうにも作品の進行を停滞させるなぁ、と思っていたのだが、今回は台詞の量がさほど気にならず楽しめた。これはアクションと台詞の量がバランス良くブレンドされていたからだろう。一般向き娯楽映画として楽しめるかどうかという点では、この第2部の方が勝っているように思える。個人的にもこちらの方が好きになった。


いつもの彼らしさを取り戻しつつ、『Vol.1』に比べて内容に深みが加味されこの急激なスタイルの変化は、前作のスピード感に痺れた人は戸惑うだろうし、前作に違和感を感じた人にはかえって心地良いかも知れない。


物語の始まりである教会での殺戮が、ざらついたモノクロ映像で語られるのは前作同様。しかし今回語られるのは、その殺戮の前までの状況。この場面にビルとザ・ブライドの心のすれ違いが描かれ、これが映画の結末までの根幹を成すことになる。前作がヒロインの荒れた復讐に燃える無慈悲な心を描いたとすれば、今作は男女の寂しい心を描いた作品と言えよう。殺戮を繰り広げたヒロインの人間性の再生と、自らの手で愛するものを葬ろうとした寂しい男の対立は、全体にしんみりとした『ジャッキー・ブラウン』(1977)を思わせるタッチで描かれる。それでもこちらの心奥深くまでズシリと響かないのは、飽くまでも「娯楽映画」の範疇を外れていないから、とは言い過ぎか。それでも『ジャッキー・ブラウン』で中年男女のほのかな恋愛を描いてこちらを驚かせたタラは、その手腕をさらに確固としたものにしていて、タダの映画オタクではない、当たり前だけどプロの映画監督でもあると、今さらながら再認識させる。


ヒロインのユマ・サーマンは前作以上に存在感を増している。芯の通った貫禄と言おうか、大作で主役をしょって立つだけの肝の座り具合が出てきた。人間味が加味された役柄のせいもあって、作品に重量感をもたらしている。台詞量が決して多くは無いのに存在を強く感じさせるのは、単に出ずっぱりなだけではなく、演技に人間味という重しが備わっているからだろう。


タラのキャスティングに対する目は相変わらず小憎たらしい程確かで、ビルの弟役マイケル・マドセンもしょぼくれた人間味があるし、『スプラッシュ』(1984)の人魚が殺し屋になるとは、と感慨深いダリル・ハンナは凄みがある。その彼女とザ・ブライドとの大格闘場面は迫力があり、この作品のハイライトの1つとなっている。しかし今回のタラ作品最大の目玉、恒例の「かつてのスター復活祭」は、ビルことデヴィッド・キャラダインだ。彼が画面に登場するだけでその場の空気が一変する。台詞回しも含めた演技が素晴らしく魅力的、クールでタフ、愉快な男でありながら、今はどこか抜け殻のような男を、血の通った悪党として演じている。キャラダインはビルという人間を奥の深い造形にしていて、それがまた格好良く決まっているのだ。


格好良いのはビルだけではない。クライマクスの対決も静から動、そして再び静へと戻り、呼吸もびしりと決まっている。本当にクールな場面とはこのこと。タラのしてやったりの表情が浮かぶようだ。


キル・ビル Vol.2
Kill Bill: Vol. 2

  • 2004年/アメリカ/カラー(一部モノクロ)/136分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated R for violence, language and brief drug use.
  • 劇場公開日:2004.4.24.
  • 鑑賞日:2004.4.24./ワーナーマイカル新百合ヶ丘8 ドルビーデジタルでの上映。公開初日土曜21時45分からの回、238席の劇場はチケット完売。
  • 公式サイト:http://www.killbill.jp/ ノートンさんのせいなのでしょうか・・・・Internet Explorerでは内容がブロックされて確認出来ませんでした・・・。というか、本当にそうだったら、そんな作りで良いのかこのサイトは?