恋愛適齢期


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ハリー(ジャック・ニコルソン)は20代の女性しか相手にしない、老いて益々お盛んなプレイボーイ。気持ちは若いつもりでも身体はさすがにガタが来ていたのか、ガールフレンド(アマンダ・ピート)の家で倒れてしまい、彼女の母エリカ(ダイアン・キートン)の看病を受ける羽目になってしまう。ハリーとエリカは段々と心を通わせて来るが、ハリーの担当である若い医師ジュリアン(キアヌ・リーヴス)はエリカに想いを寄せ、積極的にアプローチしてくる。


老いたるヒネくれ者のプレイボーイと若くて性格の良い医師の2人に言い寄られる、熟女のファンタシーを描いた作品・・・ではなく(いやまぁ、そういった一面もあるのだろうけど)、男女三角関係もののこの映画は、これが中々笑わせてくれるのだ。前作『ハート・オブ・ウーマン』(2000)でメル・ギブソンの魅力を存分に引き出した監督/脚本家ナンシー・マイヤーズの手腕はここでも健在で、主演2人の御仁は魅力的、特にダイアン・キートンはすこぶるチャーミングである。堅物の戯曲作家が恋をして気持ちが大変身する様を、笑わせつつも真摯に演じていて、しかも華がある。下手すりゃ親子ほど歳の離れたジュリアンが惚れるのも無理からぬことか。


相手役ニコルソンはいつも通りにニコルソンらしい芸を見せてくれる。優しさと辛辣さを持ち合わせた根が臆病な男を演じていて、こちらはほぼ期待通り。素晴らしいのだけれども、期待値以上でも以下での無いというのが正直な感想。若い女性と浮名を流し・・・と実生活そのまんまではないかと思わせるキャスティングでも、ニコルソンは魅せる。その一挙手一投足からは目が離せないし、とうに達人の域に達している「芸」を眺められる時間は、豊かというもの。キートンの妹のフェミニストフランシス・マクドーマンドも、出番が少ないもののキビキビした演技で笑わせ、さすがヴェテランという仕事振り。人生をシニカルに見つつも、そこにどこか愉快な感じを滑り込ませるのはこの人ならでは。このタイプの違う3人のヴェテランが笑わせてくれる一方、若者陣営にアマンダ・ピートというイキ良く勘も鋭い女優を配置して、そちらでも楽しませてくれる、バランス感覚に秀でたキャスティングは中々巧みだ。


笑いといえばこの映画、ニコルソンがお尻を見せるのは今さら珍しくないけれど、キートンまでも前面ヌードになって笑いを取るのだから可笑しい。裸で笑いを取るという上品さから程遠い筈の行為が、この映画では下品さから程遠く感じさせるのはあら不思議。何故ならそこにある笑いには嫌味が無いから。ナンシー・マイヤーズ自身も中年なのだから当然なのかも知れないけれど、長生きすれば誰もが避けられない老いに対する視線が優しさとからかいを伴っていて、それが軽薄でない笑いを生み、素直に楽しませてくれるのである。


その一方で医師がヒロインに惚れてしまう理由に説得力が無いのは、キアヌ・リーヴスの相変わらず能面か笑顔の2種類しかない表情だけではなく、脚本の弱点でもあろう。いくら彼女が長年憧れの存在だった戯曲作家とはいえ、「憧れ」と「惚れ」は別の筈。医師の心理がその「惚れ」に転調する描写が欲しかったところだ。


ナンシー・マイヤーズの脚本と演出は全体的に楽しませてくれ、特に前半はかなり笑わせてくれる。しかし後半になるとありきたりな恋愛物に陥ってしまうのが惜しい。また、この手の映画にしては2時間強という上映時間はやや長い。後半をもう少し刈り込んでも良かった気がする。


それでも『恋愛適齢期』という秀逸な邦題の恋愛コメディは、気軽に楽しめる点でお勧め出来る。


恋愛適齢期
Something's Gotta Give

  • 2003年/アメリカ/カラー/128分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for sexual content, brief nudity and strong language.
  • 劇場公開日:2004.3.27.
  • 鑑賞日:2004.4.16./ワーナーマイカル新百合ヶ丘2 ドルビーデジタルでの上映。平日金曜21時25分からの回、280席の劇場は30人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.warnerbros.co.jp/somethingsgottagive/ 文字情報のみで予告編も無し、Webサイトならではの工夫も見られない寂しいサイトだなぁ。スタッフ紹介で撮影監督の「マイケル・ボールハウス」とあるのは、本当は「ミヒャエル・バルハウス」なんだけど・・・。配給会社はこういったところにも注意してもらいたいところ。いい加減な仕事だぁ。