テキサス・チェーンソー


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1973年、テキサスの田舎での事件。通り掛かりの若者たち5人は、人面皮のマスクを被った異様な大男に追い掛け回され、次々と血祭りに上げられる。


冒頭に仰々しくも「人物名等は変えられているが、事実に即している」云々かんぬんと出る映画は、本当のところは1950年代に起きた、かの有名なエド・ゲイン事件にヒントを得た1975年の名作『悪魔のいけにえ』のリメイク。冒頭とエンディングで『ブレアウィッチ・プロジェクト』(1999)を模したかのような偽ドキュメンタリ(=モキュメンタリ)を付け加えているものの、内容は全くのフィクションである。


思えば、トビー・フーパー監督によるオリジナル版は、今から観てもかなり異色のホラー映画だった。後に人気の大男レザーフェイスによる残忍な殺人場面からしてそう。何の感情も無く、牛や豚を殺すかのように若者をえじきにするその姿を、ことさら強調することもなくただカメラを据えて撮ったかのように描写しており、それが作品を乾いて殺伐としてさせていた。特殊メイクを使った直接描写は無くとも、屠殺用ハンマーや、肉を吊るす用の天井から吊り下げられていた大型フック、それにすっかり有名になった電ノコなぞの凶器で、次々と虐殺を行う様は相当に迫力があったものである。また、超低予算映画だったので、16mmで撮影したのを35mmにブローアップした荒れた映像が、雰囲気に大きく影響していたように思える。


とまぁ、元祖スプラッタ映画(といっても実際には出血量は殆ど無いのだけれど)の怪作をリメイク、などという暴挙に出たのは、『アルマゲドン』(1998)、『パール・ハーバー』(2001)のスカ大作監マイケル・ベイ。一時はベイ自身が監督との話もあったのだが、結局製作だけ担当になったのは天の恵みだろう。代わりに、新人なのに我がまま言いたい放題で『エンド・オブ・デイズ』(1999)をクビになったという、MTV出身のマーカス・ニスペルが監督デヴューを飾っている。そう、またもやMTV出身のロクでもない映画監督の出現だ、と思った。ところが、この布陣からすると全く期待出来ない筈なのに、これが意外と「まとも」な映画に仕上がっていたのである。


冒頭での警察の資料室から見付かったという16mm白黒フィルムから始まり、褪せたカラーのザラついた映像の本編になっていくのは、オリジナル版を意識してのことかも知れない。オリジナル版にあった自分の手をナイフで切る気違いヒッチハイカーを拾う代わりに、どこか異様な少女を拾う序盤の改変もまぁ良しとしようか。この少女の顛末を引っ張った為に、『フルメタル・ジャケット』(1987)なリー・アーメイ演ずるアヤしい保安官をフィーチャー、その異常性を前面に出してきているす。オリジナル版でも、犠牲となる若者連中は大した個性を与えられていなかったが、それは今回も同じ。その分、念の入った変態一家の描写に力が入っている。


へんぴなド田舎で孤立した若者を攻撃する一家は、よそ者として徹底的に疎外される都会ものの不安感の極端な象徴だ。この前半は、執拗に若者たちをいじめ抜く保安官の描写に象徴されるように、じりじりするねちっこいタッチがサスペンスを盛り上げる。


やがて、待っていました我らがレザーフェイスが登場し、どデカいハンマーで犠牲者の頭をブン殴るくだりからいよいよ映画は加速してくる。このレザーフェイス、エプロンをまとい、オリジナル版と同じ凶器を使用しても、新たな趣向を用意している。場面によっては人面皮マスクを換えるのだから、気合も入っている。演出と脚本も生ぬるいドラマなぞ入れず、延々どこまでも追いかけて来るレザーフェイスの迫力と恐怖で後半まるごと押し切っていて、グロテクスなホラー映画に徹した作りが気持ち良い。また、オリジナル版を意識してのことか、成人指定を逃れる為なのか、直接的な残酷描写は少な目にしながらも、おぞましい地下の作業場などの画面から腐臭が漂ってきそうな映像も含めて、とにかく観客を怖がらせてやろうと作り手が頑張っているのが分かる。人物ドラマを撮らせるとどうかはともかく、少なくともこの映画に関してはニスペル監督の起用は当っている。


しかし時代の変化によるものなのだろうか。変態一家についての合理的説明も殆ど無かったオリジナル版に比べ、不条理な恐怖という点では劣っているように思える。荒々しく、ぶった切ったような乱暴な作りのオリジナル版を意識してか、モキュメンタリ映像で挟む構成の本作は「劇映画」を感じさせ、プロが作った作為の臭いがするのだ。レザーフェイスが素顔をちょいと見せるサーヴィス精神もその表れだろう。また、全体に湿り気のある凝った映像は、乾いたオリジナル版と対照的だ(撮影監督は同じくダニエル・パール)。そういった箇所が、本作を意外に「まともな」ホラー映画にしている理由である。


テキサス・チェーンソー
The Texas Chainsaw Massacre

  • 2003年/アメリカ/カラー/94分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong horror violence/gore, language and drug content.
  • 劇場公開日:2004.3.20.
  • 鑑賞日:2004.3.26./ワーナーマイカル新百合ヶ丘7 ドルビーデジタルでの上映。平日金曜21時35分からの回、170席の劇場は約20人の入り。
  • 公式サイト:http://www.herald.co.jp/official/texas_chainsaw/index.shtml 簡単な映画紹介、予告編。ちょい・・というか、かなり寂しい。「一語一映 ―翻訳舞台裏を読む―」では、字幕翻訳者:牧野琴子のちょっとした感想が読める。シネマライズ渋谷のパンフレットでも、こういうのを毎回やっているが、Webでは珍しいのでは。こういった試みはもっとあっても良い。
  • 上記公式サイトにはがっかりだが、ヘラルド映画はこんなサイトも用意していた!http://www.horror-house.jp/テキサス・チェーンソー」のグリーティング・カードなんて欲しくないよー・・・と思ったら、「2/13に公開します。」とあるのに、未だ無いし。内容はこれから充実していくのであろうか。こちらもちょい寂しい。