ゴシカ


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

優秀な精神科医ミランダ(ハル・ベリー)は、気付くと自分が勤務する女子刑務所精神科病棟の牢獄に居た。幸せな結婚生活を営んでいたのに、記憶に無い夫殺しの容疑を掛けられて。やがてミランダの前に次々と怪異が現れ、彼女は恐怖におののきながらも、真相を解明しようとする。


『チョコレート』(2001)でアカデミー賞主演女優賞受賞後も、『ダイ・アナザー・デイ』(2002)、『X-MEN 2』(2003)、『キャットウーマン』(2004公開予定)、次々にジャンル映画に出演し続けるハル・ベリー。ファンとしては嬉しい限りだが、今度はホラー映画への出演とは見上げた根性である。


ということで、見ものとなっているのがハルの孤軍奮闘振り。伝統的なスクリーム・クイーンとは言えないものの、怯え、震え、時に悲鳴を上げつつも、頭脳と体力をフルに使って真相究明に邁進していく姿は、彼女のキャラクターに合っている。この手の映画だからと言っても演技に手抜きは無く、全編出ずっぱりで大熱演。ホラー映画との相性が意外にも良いし、何より彼女を映画の核とした作りはひとまず成功している。


ハルを筆頭にホラー映画にしてはやけにスターを使ったこの映画、精神病患者として顔を見せるペネロペ・クルスも脇役として顔を出し、目・鼻・口の大きい造作が不気味なところのある役にぴったり。ハルの同僚役としてお久し振りのロバート・ダウニー・Jrも、彼を信じて良いのかどんなものやら分からない役どころで、キャスティングの妙だ。


クリムゾン・リバー』(2000)等のマチュー・カソヴィッツ監督のハリウッド進出作が、まさかロバート・ゼメキスジョエル・シルヴァーのホラー専門会社ダーク・キャッスル・プロ作品というのも驚きで、これが演出で頑張っている。ガラス張りの独房といった面白いセット、シャワールーム、雨、闇などを効果的に使い、ホラー映画としての見せ場を途切れさせない。単なるこけおどしや暴力描写は抑え、雰囲気を盛り上げ、小ぶりながらもパンチを小刻みに効かせ、緊張感を持続させているのは立派だ。


但し、セバスチャン・グティエレスによる脚本は余り立派ではない。最後まで謎解きに対する興味で観客を引き付けるが、主人公の心理が説明不足だ。そもそも心霊現象なぞ信じなかった筈の主人公が、いつから超自然現象を信じるようになったのか。ここをドラマティックに描くだけでも随分と違っていただろう。彼女は本当に狂気の人なのか、それともやはり単なる濡れ衣なのか、その境目をもっと丹念に描くべきだった。でないと、折角優秀な精神分析医を主役に持ってきた意味が薄れてしまうというもの。加えてクライマクスが弱いのも、解明される真相にもう一捻り欲しかったから。役者の好演と演出の力も、さすがに脚本の根本的な弱点は補えなかった。


しかしながら1時間半そこそこの上映時間も、最近やたらと多い上映時間水増し映画と一線を画して潔く、身の丈にあったホラー映画として好感は持てた。


ゴシカ
Gothika

  • 2003年/アメリカ/カラー/98分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated R for violence, brief language and nudity.
  • 劇場公開日:2004.2.28.
  • 鑑賞日:2004.3.19./ワーナーマイカル新百合ヶ丘4/DTS 平日金曜の19時45分からの回、175席の劇場は十数人の入り。
  • 公式サイト:http://www.warnerbros.co.jp/gothika/ 映画紹介、予告編など。メジャー作品とはいえ、公開規模からするとこんなものか。