ラブ・アクチュアリー


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


イギリス発のロマンティック・コメディは楽しい出来映え。しかし、たっぷりと砂糖を使った甘味は好き嫌いもありそうだ。


映画はメイン・プロットを特に持つわけではなく、9組のカップルの恋愛模様をそれぞれ同時進行で描く作りとなっている。お陰で2時間を優に越す長尺になったが、通常の映画よりも内容にヴォリュームがあるのだから致し方ない。


自信の無さげな英国首相(ヒュー・グラント)は首相官邸の職員を見初め、恋人の浮気現場目撃で傷心状態のミステリ作家(コリン・ファース)は南仏で英語の通じないメイドが気になり、妻の死から立ち直れない父親(リーアム・ニースン)は幼い義理の息子の初恋にアドヴァイスを与え、浮気心で夫婦(アラン・リックマン、エマ・トンプスン)の間にさざなみが立つ。この他にもモテない男がアメリカ行って野望を満たそうと一念勃起する話やら、ポルノ映画の撮影現場での恋やら、何故か親友の花嫁に冷たい態度を取る芸術家の話やら、職場の片思いやら、内容は盛りだくさんである。


一番可笑しいのは落ちぶれた中年ロッカーのエピソード。主役は『アンダーワールド』(2003)で貫禄ある吸血貴族の首領を演じていたとは思えないビル・ナイである。彼演ずるロッカーの破天荒な言動がいちいち面白く、ナイの濃い演技も強烈。しょぼくれた自己陶酔とも言うべき演技は絶品で、その場をさらってしまう。笑わせキャラとして出てくるローワン・アトキンスンも霞むくらいだ。このエピソードはどう着地させるのかと思ったら、成る程と思わせるオチだった。また脇役連中では、アメリカ大統領役ビリー・ボブ・ソーントンも何やら異様というか、妙な感じ。英国首相が主役のこのエピソードは、現ブレア政権へのちくり一刺しともなっている。


フォー・ウェディング』(1994)、『ノッティング・ヒルの恋人』(1999)、『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)などの大人向け恋愛コメディの名脚本家、リチャード・カーティスの脚本&初監督作品は、愛だけでなく笑いもたっぷり(他の観客のリアクションがイマイチで寂しかったけど)。映画の構成上、どのエピソードも深く掘り下げることはしておらず、物語的にもそれ程大それた内容ではないものの、メリハリ付けて交通整理されているのはさすが。ポップミュージックの使い方や、際どい笑いの挿入もカーティスらしい。脚本家としての冴えを感じるのは、ジョニ・ミッチェルのCDを夫からクリスマス・プレゼントにもらった妻エマ・トンプスンの反応や、憧れの男を家に連れて帰るのに成功したローラ・リニーが「1秒待って」と言ってから見せる行動など。こういった小技が映画でのアクセントとなっていて、鑑賞後も印象に残る場面となっている。


必ずしも全てのエピソードがハッピーエンドを迎える訳ではなく、切ない余韻を残すものもあるが、映画全体はクライマクスに向けて盛り上がり、幸福感に包まれて終わる。


この映画に拒否反応を示す人がいるとしたら、”愛はどこにでも満ち溢れている”などという照れそうなテーマを、甘く甘く描いているからだろう。また、映画全体はヴォリュームがあるのに各エピソードが軽く、綿菓子のようにスカスカな映画と批判する向きもあろう。


確かに。


でもこれはある意味ファンタシー映画なのである。悪人は登場せずに登場人物殆どが善人なのも、各エピソードをちょい強引にまとめ上げる現実感の希薄なラストも、そう思えば納得のいくというもの。


惜しむらくは日本での公開がクリスマス・シーズンでなかったことだが、気軽に楽しめるコメディとしてならば及第点の仕上がりだ。


ラブ・アクチュアリー
Love Actually

  • 2003年/イギリス、アメリカ/カラー/135分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated R for sexuality, nudity and language.
  • 劇場公開日:2004.2.14.
  • 鑑賞日:2004.2.14./ワーナーマイカルつきみ野5 ドルビーデジタルでの上映。公開初日の土曜16時35分からの回、186席の劇場は半分の入り。
  • 公式サイト:http://www.loveactually.jp/ 映画紹介、予告編、人物相関図、サウンドトラック試聴、相性診断など。