ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還


★film rating: A+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

指輪の魔力のせいで疲労困憊のフロド(イライジャ・ウッド)と、彼を気遣う従者のサム(ショーン・アスティン)、道案内をするゴラム(アンディ・サーキス)らは、冥王サウロンの領土モルドールに潜入しようとしていた。一方、サウロンはオークの大軍勢を人間の王国ゴンドールに差し向ける。王家の末裔アラゴルン(ヴィゴ・モーテンスン)は自らの血を運命と受け入れ、ゴンドールに王として戻ることを決意。ローハンの王セオデン(バーナード・ヒル)と共に騎馬軍団を率いて、救出に駆けつけようとする。そしてメリー(ドミニク・モナハン)とピピンビリー・ボイド)にも、新たな試練が待ち受ける。


過去にあった3部作もの、例えば『ゴッドファーザー』、旧『スター・ウォーズ』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、最近では『マトリックス』など、第3部が一番出来が良かった試しは無かった。第2部が第1部を上回っていたことはあっても、第3部が一番不出来だったりで、出来の良い第2部で散々期待させておいても、盛り下げるのが定番なようである。だからピーター・ジャクソン監督の3部作に対する一抹の不安とは、最終話を観て「やはりこれも駄目だったか」と失望させられないか。それに尽きたと思う。


しかし、だ。不安は吹き飛ばされた。この第3部が最も劇的興奮に満ち、映画的興奮に満ち、何より感動に満ちていた。その意味では、驚くべきことに旧『スター・ウォーズ』を遥かに凌駕してしまったのである。前2作も非常に完成度が高く、しかも今回はさらに前評判が高いので待ち焦がれていたのに、その期待を軽々と上回ってしまう離れ技を成し遂げた映画の作り手たちに、何よりも感動してしまう。


意表を付いた冒頭場面は牧歌的映像から惨劇へと転調し、その後の不吉を暗示する。その後は、「説明は抜きだ、さぁ物語のおしまいに取り掛かろう」とばかり、映画は序盤から猛スピードで飛ばす。それぞれの人物が己を自覚し、役目を果たそうとする姿を並行して描く演出は、力も篭っていて見応え十分。特にメリーとピピンの成長は感動的だ。もはや無敵の超人となったアラゴルンガンダルフイアン・マッケラン)、レゴラスオーランド・ブルーム)よりも、葛藤のある彼らの方が印象に残るのは当然であろう。


各々が自らの運命を変えるべく、そして広大な世界の流転を何とか変えるべく奮闘する間に、中つ国を飲み込もうとする戦乱の暗雲が飛来し、物語は指輪戦争の最終局面へと雪崩れ込む。特に中盤からこれでもかと続く大戦闘場面は、迫力と緊張感で息を呑む出来映え。ゴンドールの首都ミナス・ティリスを包囲する20万ものオークの軍勢による攻撃開始と、対するゴンドール軍勢の反撃のスケールたるや凄まじいもの。さらには蛮族が操る巨像オリファント軍の襲撃も、『帝国の逆襲』(1980)の「雪原の闘い」へのオマージュとなっていて、あれを今の技術でスケールアップして映像化するとこうなるんだ、と言わんばかり。一難去ってまた一難の映像・音響の波状攻撃は、空前の大スペクタクルと言っても過言でない。圧倒的迫力とはこのこと。怒涛のようとはこのこと。正に映画館でしか体感できない興奮だ。しかもこの興奮が、ドラマをがっちり描いていて初めて成り立っているのが素晴らしいではないか。前2作を楽しんだ人が劇場をやり過ごし、小さいテレビ画面のDVDで楽しもうなんて、はっきり言って愚の骨頂以外の何ものでもない。『スペシャル・エクステンデッド・エディション』のDVDなんて待たず、これを劇場で観なさい、これを。座り心地の良い椅子を完備する劇場で、是非大画面と大音響を体感することをお勧めしたい。


そういう意味では観客の選別は既に行われている。今までの粗筋が何の説明も無いのは『二つの塔』同様なので、前作を観ていない人にはさっぱり分からない筈。それに前2作を楽しめなかった人にとっての休憩時間無しの3時間半弱もの上映時間は、ただただ苦痛なだけだろう。しかし前2作を楽しめ、感動した人には、これ以上は無い至福の体験を提供してくれる。


後半部分の映像は戦闘場面に覆い尽くされていくが、多彩な人物たちの感情までもが特撮にが覆い尽くされることはない。やがて映画は指輪所持者であるフロドのドラマへ収斂していく。彼の孤独感と苦闘は息苦しい程で、同行するゴラムとサムの葛藤も緊張感を持続させる。そこにアラゴルンらの軍団が絡み、全てが指輪破壊達成という目標へと突き進む終盤は、登場人物同士の感情が最高潮に達する展開でもあるのだ。アラゴルンが吐く台詞、メリーとピピンの行動も充分エモーショナルだが、特にサムが見せるフロドへの献身は感動的で、毎度のことながら終盤をさらってしまう。


それにしても驚かされる。事前に『スペシャル・エクステンデッド・エディション』で第1部・第2部を観て復習してから今回の上映に駆け付けたのだが、その繋がりのスムースなこと。勿論、トールキンの高名な原作の力もあるのだろうが、プロットだけではなく、個々の人物の変化も自然な流れとなっていて、上映時間が10時間もある1本の映画として違和感なく仕上げたのは、まさに天晴れとしか言い様がない。壮大な特撮だけに頼らず、役者から素晴らしい演技を引き出し、パワーに溢れながらぞんざいにならず、幾多もの奔流を一本の大河にまとめ上げる。ピーター・ジャクソンの豪腕演出には、ただただ圧倒されるばかりだ。


そして映画は小ぢんまりと、寂寥感を伴って静かに終わる。そこには、幸福な観客と映画の別れに相応しい余韻が残る。加えて新しい趣向のエンドタイトルも、「あぁ、あんな場面があったな」と第1部・第2部までも回顧させ、結末に相応しいささやかな華を添えるのだ。


この映画の欠点は上映時間が短いこと。3時間半近い上映時間は肉体的には決して楽ではないものの、なお中つ国にまだ浸りたい思いを起こさせる。それにドラマ部分でもかなり削除された後があるので、まだまだ観たいではないか。原作読者ならばにやりと出来る、映像で簡単に触れられている程度の個所も、上映時間の都合でカットされた部分の名残であろう。早く『スペシャル・エクステンデッド・エディション』を観たい、という気持ちを起こさせる。今度は4時間10分という噂だって? いやはや。そんな風にDVDを待ちながらも、また劇場に出掛けてしまいたくなる、映画史に残る大傑作に相応しい完結編である。


ロード・オブ・ザ・リング王の帰還
The Lord of the Rings: The Return of the King

  • 2003年/ニュージーランドアメリカ/カラー/203分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense epic battle sequences and frightening images.
  • 劇場公開日:2004.2.14.
  • 鑑賞日:2004.2.7./ワーナーマイカル新百合ヶ丘1/ドルビーデジタルEXでの上映。先行上映土曜20時30分からの回、452席の劇場はチケット完売。
  • 公式サイト:http://www.lotr.jp/ 内容盛りだくさんで見た目も賑やかなサイト。過去のニュースのバックナンバーを眺めれば、あぁ、あんなこともあったなぁ、と思い出させるし、掲示板は早速大盛り上がりだし。暫くは続いてもらいたいサイトではある。