リクルート
★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。
MIT(マサチューセッツ工科大学)の優秀な学生(コリン・ファレル)は、CIAの教官(アル・パチーノ)に引き抜かれる。厳しい訓練を受けるうちに、二重スパイの疑惑を持たれた同僚を調査するよう指令される。
コリン・ファレルがMITでしかもコンピュータの才人に見えないとか、DELLのような寄せ集め部品で安く製品を作る会社が、新技術に注目しての引き抜きはしないだろうとか、確かにそれはその通り。でもこの映画、そんな点は置いておいて、快調なテンポでサスペンスとスリルを盛り上げる映画として結構楽しめる。
娯楽映画としてはきちんと作られている。今や飛ぶ鳥落とす勢いのコリン・ファレルと大芝居のアル・パチーノを配し、新進気鋭を大ヴェテランが受けて立つ構図も定石ではあるが、それも決まっていて気持ち良い。何でもこなす器用なファレルは演技もシャープ、小柄な身体も相変わらずよく動き、アクション場面でのきびきびした小気味良さも、映画に勢いをもたらしている。
映画に対する一番の興味は、上映時間の多くを占めることになる、知られざるCIA訓練学校(通称:ファーム=農場)の場面だろう。どれくらい事実に近いのか分からないが、肉体訓練、ハイテク装備や情報分析、様々な戦略の教育だけでなく、訓練生同士に騙し騙されの情報戦をさせたり、時に一般的な意味での教育とか訓練を越えた非情なシミュレーションを課したり、かなり興味深いものとなっている。映画全体が主人公の視点で描かれている為に、それが主人公のみならず、やがて観客をも何が現実なのか疑心暗鬼にさせていく流れも自然、これは中々に上手い作りだ。ロジャー・ドナルドソンの演出も『13デイズ』(2000)の好調を維持し、快調なテンポで映画を進める。ただ残念なのは、余りに観客に猜疑心を持たせる為、後半になっても「まだ訓練じゃないのか」と思わせ、それによって緊張感の高さが落ちてしまうことである。
疑惑が疑惑を呼び、その疑惑が事件を呼び、やがて真相が明らかになるクライマクスへの勢いはある。しかしそのクライマクスで悪役が正体を現すに至って、映画は急ブレーキが掛かってしまう。悪役の動機がありきたりで詰まらなく、映画全体をスケールダウンさせてしまったからだ。これは脚本の失敗だろう。この映画の悪役はこんなちんけな小悪党ではなく、確固たる信念を持つ悪党であるべきだった。
そんな訳で『リクルート』はラストで失望を呼ぶが、それまでは楽しめる出来には仕上がっている。
リクルート
The Recruit