ファインディング・ニモ


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

唯一の子供である小魚ニモを人間にさらわれたカクレクマノミの父魚マーリンは、子供探しの為にグレート・バリア・リーフから大海へと出、色々な海の生物と知り合うようになる。一方のニモも、水槽で知り合った仲間たちと何とか脱出しようと試みる。


今更、と言われるかも知れませんが、もう断言しても良い筈です。何せ『トイ・ストーリー』(1995)、『バグズ・ライフ』(1998)、『トイ・ストーリー2』(1999)、『モンスターズ・インク』(2001)と充実した長編CGI作品を連打し、今度の『ファインディング・ニモ』を放ったピクサーは、完璧に信用できるブランドになった、と。同社への資金提供と配給を手掛けるディズニーは、今や過去の資産食い潰す頼りないラインナップを並べるのみ。少なくとも今現在は、ディズニー以上にピクサーの方が勢いとクオリティを持っています。


それにしても魚が主役の映画だなんて、よくぞこんな企画が通ったものです。最初に内容を伝え聞いたときは、正直なところ余り面白そうじゃないように思えました。しかしそこはさすが。やはりと言うか、ピクサーならではのCG技術を生かし切った映像は本当に素晴らしい。カラフルな色彩、バラエティ豊かなキャラクターたち、リアルでいながらリアル過ぎない観ていて心地良いテクスチャ。こういった技術面では、もはや他社の追随を許さぬどころでありません。


優れた技術を生かす企画も、いざ実際に観てみると感嘆してしまいます。これはCGIならではの面白い映画なのです。


CGIの作り込みが上手いだけでなく、各キャラクターの内面、つまりは面白い個性作りでも確固たる実力を発揮しています。主人公マーリンのみならず、脇役たち皆が奇跡的によく出来ています。水槽にて出会うニモの仲間たちのような台詞のあるキャラクターだけでなく、『ウォレスとグルミット/ペンギンに気をつけろ!』(1993)の悪党マッグローの顔を持つアホなカモメたちまでもが面白い。特筆すべきはマーリンと共に旅をする陽気な健忘症の魚ドリー。声を演じたエレン・デジュネレスの芸と相まって爆笑もので、ピクサーの作り出したキャラクターの中でも傑出した出来映えです。日本語吹替え版未見なので室井滋版は分かりませんが、少なくともこのドリーはデジュネレスとの個性と合わさって出来上がった傑作です。


かように技術と内容が互いに貢献しあっている作品を観るにつけ、同社のがっちりとした戦略には舌を巻くしかありません。


この映画に掛けるスタッフの情熱は画面からだけでなく、至るところから見受けられます。マンネリを打破すべく、音楽担当をランディ・ニューマンからトーマス・ニューマンへと変更したり、エンドクレジットの趣向を変えたり、といった製作上の冒険もそうでしょう。安住することの無い前進し続ける姿勢は上昇気流に乗っているプロダクションならではです。しかしここで敢えて苦言を呈するならば、脚本にもさらなる情熱とあと一捻りが欲しかった。ささやかながらも驚きが欲しかった。例えば『トイ・ストーリー2』にあった、捨てられたオモチャ側からの視点のような「何か」があれば尚更良かったのではないでしょうか。この作品には、あぁいったエモーションを掻き立てられる不意打ちが欠けています。単純なプロットだからこそ、捻りが必要なのです。


また平板な脚本は、全体に難があるテンポも目立たせることになっています。前作『モンスターズ・インク』もそうでしたが、ピクサーは脚本を単純化し過ぎていやしないか。ちょっと気になるところです。


巷では、クライマクスでマーリンでなくニモが主役になってしまうのが不満だ、という意見もあるようです。しかし作品のテーマが親の子離れと子の親離れなのですから、これは当然の作劇です。マーリンとニモを並行して描いていた構成で推して知るべしでしょう。


欠点は目に付くし、完成度の点でもピクサーブランドとしては上位には入らないでしょう。それでも『ファインディング・ニモ』は気軽に楽しめるコメディです。


ファインディング・ニモ
Finding Nemo

  • 2003年/アメリカ/カラー/101分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated G
  • 劇場公開日:2003.12.6.
  • 鑑賞日:2003.11.29./ワーナーマイカルつきみ野5/ドルビーデジタルでの上映。土曜の先行レイトショーは、186席の劇場は約6割程度の入り。
  • 日本版公式サイト:http://www.disney.co.jp/nemo/ 予告編、壁紙&スクリーンセーバー、ゲームなど、余り情報量が多くないのがディズニー映画らしいサイト。