アンダーワールド


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

吸血鬼たちと狼人間たちの暗闘は数百年にも渡って続いていた。狼人間ハンターである戦士セリーン(ケイト・ベッキンセール)は、狼人間たちが何か策略を企んでいることに気付くが・・・。


続編製作は決定したものの、北米での批評が余り良くないものだからさして期待していなかったが、これは思わぬ拾い物だった。MTVやTVCFで活躍中というレン・ワイズマン原案・監督のアクション・ホラーは、予告やCFから予想通りのダークなヴィジュアル満載だし、拳銃の腕に自信有りな黒尽くめのヒロインという『マトリックス』(1999)のパクリと思わせる設定は、よくある「ルックス満点だけど中身空っぽなMTV系監督処女作」に見えるし、そんなこれで期待しろという方が無理からぬもの。しかしこの映画、意外なことに脚本がしっかりしているのである。


冒頭にある地下鉄を舞台にした狼人間たちと吸血鬼たちとの激しい撃ち合いは、作り手たちは掴みのつもりなのだろう。しかし昨今の派手な銃撃戦映画を見慣れた目にはさりとて面白くも無く、吸引力は弱い。ここでまず「こりゃ面白く無いかもな」と思わせるものの、やがて狼人間たちがある人間を追っていたらしい、と分かる辺りから俄然映画は面白くなってくる。


登場人物の殆どが吸血鬼か狼人間で、普通の人類はくだんの追いかけられていた男くらい。およそ我々一般人が入り込む余地の無いUnderworldを舞台にした映画は、ゴシックを意識したセットや衣装、映像の美意識で中々凝っているし、カラー映画なのにモノクロ映画のようなルックスと相まって1つの世界を構築している。『ブレイド2』(2002)でも使われたプラハの夜の街並みも、この世界では重要な要素。また、背景の設定である吸血鬼の階級社会らしきものも何となく伝わるし、これは魅力的な世界だ。


このような世界で狼人間狩りに生きるヒロインがどう描かれているか、それがこの手の映画で興味惹かれる点だ。元々は人間だった彼女の背景を、後半でその感情を上手く絡めた展開に持っていくあたりは中々注意深い脚本と言える。ナンシー・コリンズの『ソーニャ・ブルー・シリーズ』とイメージが重なっているのは間違いない。演ずるケイト・ベッキンセールも色白の細くしなやかな外観が似合っているし、下手な感情吐露をしないハードボイルド演技も爽快だ。いやはや、『パール・ハーバー』(2001)での白衣の尻軽娘などよりこっちの方が余程良い。それでも我ら常人とは隔絶された世界に感情移入させるのはやはり難しかった様子。もうあと一歩、主人公の内面に切り込んでも良かったのだろうか。自分とは関係無い世界だから興味も湧かないと見るか、それとも関係無い世界でも興味深く見るか、そこがこの映画を評価するかどうかの分岐点となる筈だ。それを握るのは、観客との接点となるべき主人公の描写に尽きる、と言っても過言で無い。残念ながらこの映画はそこが弱いのだ。


ベッキンセイルも含め主要キャストは殆どイギリス人俳優たちで固めており、余り馴染みの無い顔触れで、これが良い。映画に独特の雰囲気をもたらしている。特に狼人間族のリーダー役マイケル・シーンは素晴らしく、儲け役とはいえ押し殺したような演技が目を引く。一方の吸血鬼族のボス役ビル・ナイも威厳があり、迫力がある。


期待の狼人間の造形は、『インデペンデンス・デイ』(1996)、『GODZILLAゴジラ』(1998)、『ダークシティ』(1998)のパトリック・タトプロスが担当。正直言って格好良さからすると今一つ納得が行かなかったが、CGを多用した変身場面がロブ・ボーティンが担当した『ハウリング』(1981)の特殊メイクを思い出させ、その手作り感覚が嬉しかったりした。


この映画は作り手たちが自分たちが好きな要素を引用し、まとめあげた作品と見てそう外れていないだろう。それがともすればマニアのみに受けるオタク映画になりそうなものの、しっかりしたプロットと展開を持つ「普通の」映画に仕上げ、一般観客にもすんなり受け入れやすい出来に仕上げている。この点は大いに評価すべきだ。


引き締まったラストも印象的で、観終えてから後になる程気になってくる作品である。



アンダーワールド
Underworld

  • 2003年/アメリカ、イギリス、チェコ、ドイツ/カラー/121分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong violence/gore and some language.
  • 劇場公開日:2003.11.29.
  • 鑑賞日:2003.12.19./ワーナーマイカル新百合ヶ丘4/ドルビーデジタルでの上映。金曜18時35分からの回、175席の劇場は十数人の入り。
  • 日本版公式サイト:http://www.underworld.jp/ スタッフ&キャスト紹介、プロダクション・ノート、壁紙、予告篇など。パンフレットに無いコンセプト・アートやストーリーボードが見られるのが良い。