フォーン・ブース


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

口八丁で大物ぶってマンハッタンを闊歩する若手エージェント(コリン・ファレル)が、偶然手にとった公衆電話の受話器の向こうから聞こえたのは、自分をライフルで狙っている、という男の声だった。のっぴきならない状況に追い込まれた彼は状況を打開できるのか。

2002年秋公開予定が、ワシントン近郊の連続狙撃事件で今年にずれ込んだこの作品、これが中々の佳作スリラーなのである。


『悪魔の赤ちゃん』(1973)、『空の大怪獣Q』(1982)といったB級モンスター映画の監督兼脚本、『マニアック・コップ』シリーズや『殺しのベスト・セラー』(1987)といったB級映画の脚本、傑作『刑事コロンボ/別れのワイン』(1973)の原案と、ある意味地に足の付いたアイディアマンであるラリー・コーエン。その彼が書いた脚本がまず秀逸だ。上映時間の殆どを占める電話ボックス近辺でのドラマに、紆余曲折・起承転結をしっかりともたせ、さりとて大掛りな事件や派手などんでん返しを起こす下手な色気も無く、小味ながらもピリリとした出来が良い。そこいら辺が昨今のド派手なイヴェント映画に慣れた向きには物足りなさもあろうが、これはこれで作品の規模にあったもので、十分充実した内容。まずはこの職人技が光る。


このワン・アイディアの脚本を、贅肉がダブ付いた無意味で空疎な大作にせず、エンドクレジット込みで81分と短くまとめたジョエル・シュマッカーの演出も見事だ。序盤からスプリット・スクリーンを駆使した切れの良い映像センスもさることながら、全てをテンポ良くスリルとサスペンス、贖罪のドラマとしてまとめ上げ、観客の目を釘付けにする。それに活きが良い。『バットマン フォーエヴァー』(1995)、『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』(1997)といったふ抜けた駄作とはえらい違いだ。それに何より、映画をコリン・ファレルのスター映画として撮っているのに注目したい。ファレルと彼の電話相手を同時に収めたスプリット・スクリーンも、ファレルをずっと映し出す為の手段、とさえ見えてくる仕掛けなのだ。かつてエミリオ・エステヴェスロブ・ロウといったスターを生み出した、シュマッカーの職人技も光る作品でもある。


その全編ほぼ出ずっぱりのファレルは、登場するや否や早口でテンション高く喋り捲るエージェントとして颯爽と登場。その実、高慢ちきでイヤな男役なのだが、ファレルが演じるとイヤ味無く憎めない大物ぶった小物の若造になっている。このキャスティングが鍵で、主人公の危機に観客がするりと感情移入出来る仕掛けになっているのだ。この個性的なやんちゃ坊主振りを生かしたシュマッカーの起用も成功しているし、ちんけな男の喜怒哀楽を演じたファレル自身の力量も素晴らしいもの。何と言っても旬のスターは勢いが違う。シュマッカーもこの男に乗せられて演出をしているのが手に取れる。


かように『フォーン・ブース』は小規模作品でも、将来のスターにとっては重要なフィルモグラフィになる可能性を秘めた、見所満載の映画なのである。いやほんと、マイケル・ベイ監督&ウィル・スミス主演、なんてェ企画が潰れて本当に良かった。小粒でも光るスリラーとしてお勧めしたい。


フォーン・ブース
Phone Booth

  • 2002年/アメリカ/カラー/81分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated R for pervasive language and some violence.
  • 劇場公開日:2003.11.22.
  • 鑑賞日:2003.12.12./ワーナーマイカル新百合ヶ丘7/ドルビーデジタルでの上映。金曜19時20分からの回、170席の劇場は6人の入り。
  • 日本版公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/phonebooth/index2.html キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、壁紙、写真、予告篇など。映画サイトとしては平均的な内容。