リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1899年欧州。列強同士を炊きつけ戦渦を起こそうとする、ただれた顔をマスクで隠すファントムと名乗る男と、彼が率いる武装団が暴れ回る。危機を回避させられるのは連中しかいないと、伝説の英雄たちが召集された。

冒頭にある謎の一団による武装攻撃から、各英雄たちが召集されていくくだりで、これは面白くなりそうだ、と映画は期待させるのだ。召集元のボスの名前が、ジェームズ・ボンドの上司と同じ英国情報部のMというのもふるっている。


英雄たちの面々は次の通り。


ヘンリー・ライダー・ハガードの『ソロモン王の洞窟』から冒険家アラン・クォーターメイン、ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』からネモ船長が、オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』からドリアン・グレイが、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』からミナ・ハーカーが、ロバート・ルイス・スティーヴンスンの『ジキル博士とハイド氏』からジキル博士とハイド氏が、それにそもそもファントムの由来はガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』じゃないか、と主要人物を有名キャスト(?)でずらり揃えたこの映画。透明人間はH・G・ウェルズの同名小説の主人公である科学者から透明薬を盗んだ泥棒、というのが可笑しい。とまれ、どんな活躍をしてくれるのだろうと、何ともわくわくさせられる顔触れじゃないか。


元になったのは、アラン・ムーア原作&ケヴィン・オニール画のグラフィック・ノヴェル。まぁ、日本で言うところの劇画だろうか。ムーアは最近映画化された切り裂きジャックもの『フロム・ヘル』の原作者でもある。


これだけ個性的な豪華キャスト(俳優たちが豪華、ではない)を起用するのだから、映画はそれを生かしてくれなければいけない。しかしながら出来上がった映画の脚本は、残念ながらそこが一番弱いのである。


クォーターメイン役のショーン・コネリーは、引退した冒険家という雰囲気が抜群に素晴らしく、70歳過ぎてもアクションに違和感が無いのはさすが。ドリアン・グレイ役ステュアート・タウンゼンドも、美貌を保つ不死の貴族ドリアン・グレイを退廃的に演じていて悪くない。でも、人物の造形を俳優に頼るだけでは、心元無いと言うものだろう。若くて生意気な若者が何故トム・ソーヤーなのか。劇中のトムは、別にトムでなくとも良いじゃないか、と思わせる程度の造形なのだ。いやそれを言ったら、何故クォーターメインやハイド氏でなければいけないのか、という説得力が脚本には決定的に不足している。単に小説界の有名人を召集しただけさ、と言わんばかりのこの扱い。折角の夢のキャストが勿体無いことこの上ない。


このような脚本での登場人物に対する理解不足と愛の無さは、悪役の正体にまでも表れている。「彼」ならばあんな派手な物量作戦は行わないで、もっと知的な隠密作戦を起こすだろう、と思わせるのは如何にもまずい。


映画には派手なアクションが並べられている。しかしその殆どがセット撮影で行われた夜の場面で行われており、爽快さに欠け、冒険活劇の醍醐味を味わわせてくれない。それに撃合いと爆発ばかりなので途中で飽きが来てしまう。『ブレイド』(1998)の監督スティーヴン・ノリントンと製作総指揮ショーン・コネリーとの製作意図の違いから来るトラブルを伝え聞いたが、そこから来ているのだろうか。ノリントンらしいマニアックさは影を潜め、平凡なアクション・ヒーロー大作の域を出ていない。こういった古典趣味の映画にこそ、こだわった描写が必要だった筈だ。


辛うじて残ったマニアックさでは、ネモ船長の潜水艦ノーチラス号や6輪自動車など、時代考証は滅茶苦茶でも心踊らされるファンタスティックなデザインで、ささやかながらも少年心をくすぐられる。これを本来ならば全編に繰り広げてもらうのが筋というものだろう。単なる大味アクションではこの企画の意味が薄れてしまう。


副題も含めて意味不明な邦題は論外だが、原題の『超絶紳士同盟』通りの道具立てを生かさなかったのが惜しまれる作品である。


リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い
The League of Extraordinary Gentlemen

  • 2003年/アメリカ、ドイツ、チェコ共和国、イギリス/カラー/110分/画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense sequences of fantasy violence, language and innuendo.
  • 劇場公開日:2003.10.11.
  • 鑑賞日:2003.11.2./ワーナーマイカルつきみ野6/ドルビーデジタルでの上映。3連休中日の日曜21時30分からの回、199席の劇場は6割程度の入り。
  • パンフレットは600円。各人物の出典元やアラン・ムーアに関する文章、プロダクション・ノート等、資料価値はそれなりにあるもの。無論、コネリーとノリントンの確執に触れた文は無し。
  • 日本版公式サイト:www.foxjapan.com/movies/league/ 予告篇、クリップ、登場人物人気投票、クイズなど。サイト右下にある「International」に進むと、各国対応(北米英語、北米以外の英語、仏語、西語、伊語、独語、ポルトガル語、ハングル、中国語、日本語)のサイトがある仕掛けだが、気付かない人も多いのではないか。その国際サイト日本語ページでは、ノーチラス号が「ノーチリアス号」と誤植されているのが何箇所かあり、ちょっと恥ずかしい。フォントも読み難い。Foxは「X-MEN2」といい、これといい、大作はすっかりこのような多言語仕様になったようだ。