インファナル・アフェア


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

優秀な刑事ラウ(アンディ・ラウ)と、香港マフィアのヤン(トニー・レオン)。それぞれの組織で活躍する2人は、実はそれぞれギャングと警察が送り込んだスパイであった。2人の正体を知るのは、各々の上司只1人ずつのみ。ラウとヤンが互いの存在を知ったとき、相手の正体を突き止めンと暗闘が始まる。


潜入捜査官の話は数あれど、ギャング側も警察にスパイを送り込み、互いに対決させるという話は初めてお目に掛かった。この設定が面白い。これを効果的に使ったのが、序盤最大の見せ場である麻薬取引を巡る攻防場面だ。使い古された通信手段を幾重にも組み合わせ、警察とマフィアが互いに裏を書こうと丁丁発止に繰り広げる頭脳戦を、観客はスクリーンのこちら側で固唾を飲んで見守るしかない。アンドルー・ラウとアラン・マックのがっちりした演出も素晴らしく、これだけの緊張と興奮をもたらすスパイ戦の描写は近年でも図抜けた出来映え。ここだけ観ても十分に入場料の元を取ったと思わせる。ここで流れるハンス・ジマー作曲の『ブラックホーク・ダウン』(2001)そっくりの音楽が流れるのは、香港映画らしい御愛嬌か(作曲:チャン・クォンウィン)。


演出は安易なアクションを挿入することなく、飽くまでもスリラーとして描こうとする決意に満ちている。マフィアと警察との市街戦などもっと派手に描けた出来た筈なのに、意図的にそれを避けているのだ。クリストファー・ドイルが監修した黄色っぽくザラついた撮影も良い感じである。


映画はやがて2人が互いを追い詰めようとする様を描いていく。しかしその後半になると、アラン・マックフェリックス・チョンの脚本の足元がふらついて来る。ただただ物語を語ろうと急ぎ足になるものの、映画そのものの求心力は失速して行くのだ。特に問題なのは、ラウの心理描写が決定的に不足している為、後半に彼が下す重要な決断が唐突に見えてしまうこと。唐突さで衝撃を与えたかったのかも知れないし、センチメンタリズムに流されないぞ、との作者たちの意志とも読み取れよう。しかし説得力に欠いた登場人物の行動は観客の混乱をもたらすのみであって、感情移入を助けるものではない。むしろ観客の心を離れさせてしまう危険性さえ秘めているのである。


ヤンとかつての恋人との関係をさらり描いたり、ラウの恋人である女流作家との場面などには、作者たちの細かい配慮が感じられる。その一方で、ヤンと精神カウンセラーであるケリー・チャンとの関係がよく分からないし、そもそもチャンの場面を無駄と感じさせたりと、細部での雑な部分が気になってしまう。思慮深さと大雑把さが同居している脚本と言えよう。


主役の大スター2人は全く互角の勝負で、文字通り2人が対等な主役と断言出来る。アンディ・ラウは硬質で鋭く、しかも抑えた熱演。脚本の描き込み不足が惜しい。対するトニー・レオンが放つくたびれた色気も目を引く。長年の潜入捜査に疲れきった捜査官の苦悩と、追い詰められた切迫感の表現には、つい感情移入してしまうだけの説得力がある。この人の退廃的な香気と、時折見せる困った表情は、ある種芸域にまで高められているのではないだろうか。


主役2人だけでなく、それぞれのボス役のアンソニー・ウォンフェリックス・チョンも素晴らしい演技。彼らの存在が作品に重みを与えている。


総体的にマスコミで絶賛されているような出来映えでなかったのは残念だが、それでも観るべき点の多い映画として十分評価出来る仕上がりだ。


インファナル・アフェア
無間道 Infernal Affairs

  • 2002年/香港/カラー/102分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated R for violence.
  • 劇場公開日:2003.10.11.
  • 鑑賞日:2003.10.12./ワーナーマイカルつきみ野3 ドルビーデジタルでの上映。3連休中日の日曜21時40分からの回、168席の劇場は7割の入り。
  • パンフレットは600円。オールカラーに主要キャストの丁寧な紹介、読み応えのある批評3本収録と、それなりに充実感はあり。
  • 公式サイト:www.infernal.jp/ 予告編、壁紙(無論、主役2人のものばかり)、BBSなど。大作に比べると見劣りするが、アートシアター系映画よりかは内容がある、といった感じ。