マッチスティック・メン


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ロイ(ニコラス・ケイジ)は、若いフランク(サム・ロックウェル)と組んで、今日もケチな詐欺を働くヴェテラン。そんな彼の元に、別れた妻との間に出来た15歳の娘(アリソン・ローマン)が現れる。彼女は父親譲りの才能を持っていた。


グラディエーター』(2000)の大ヒット以降、『ハンニバル』(2001)、『ブラックホーク・ダウン』(2001)と立て続けに血生臭い大作を放ったリドリー・スコット監督の新作は、何と詐欺師とその娘を描いたコメディ。彼のフィルモグラフィでは『テルマ&ルイーズ』(1991)と並ぶ異色作品である。ここはお手並み拝見といこうじゃないか。


ロイは病的な潔癖症で、絨毯の皺やゴミ、ガラスの曇り、プールに浮かぶ落ち葉なぞも気になって仕方が無い。おまけに広場恐怖症。極端に神経過敏な男をニコラス・ケイジが大袈裟な顔面痙攣演技で笑わせる。その相棒役サム・ロックウェルは、大雑把でズボラな男に扮し、最近の好調さを伺えさせる芝居で見せ、この対象だけでも十分面白い。


やがて娘が現れると、ロイは父性に少しずつ目覚める。まともな職に就き、養育権も元妻と分かち合おう。そう決心した彼は、相棒と共に最後の大きなヤマに挑む。


映画で圧巻なのは娘役アリソン・ローマン。余りの上手さに舌を巻く。彼女の自然な演技とケイジのいかにもな演技のコントラストも良い。これだけでも観る価値がある。要注目株だ。


破綻したプロットがよく指摘されるスコット映画に珍しく、テッド&ニコラスのグリフィン兄弟の脚本は単純に面白い(『さらば、愛しき爪』で知られるエリック・ガルシアの原作あり)。プロットもさることながら、全体によく出来ている。詐欺の手口として要所で軟弱な部分もあるにはあるが、後半の転落であっと言わせるのが鮮やか。その苦い苦い結末の後に待っているのはささやかな幸福、という二段構えも憎い。中々手が込んでいる。

スコットの演出は過剰さやいつもの様式美を殆ど捨て、物語を語ることに専念している。時折見せるライティングや編集等に己の刻印が顔を出すのが愛嬌。いつになく自分を押さえているものの、それでも正直言ってスコットにコメディは似合わない、と言わざると得ない。やはり彼にはがっちりとした作品がぴったり。いや実際、スコットはいつもの力こぶを引っ込め、リラックスして映画をまとめ上げている。コン・ゲーム、コメディ、父娘もの、精神カウンセリング、犯罪スリラー、と雑多な要素をそつなく1本の映画に入れ込んでいる。大御所の余技を味わう楽しさがこの作品にはあるのだ。しかしコメディに必要なのは軽さと弾み。よく出来たコメディは作者たちが一生懸命に頭を捻って作るもの。この作品にはいつもの重苦しさこそ無いけれども、理詰めで作られたかのような感触がコメディとして純粋に楽しむのを邪魔している。


だから映画の後半が詐欺の顛末を巡るスリラーになると、むしろしっくりして来る。これはスコットが基本的に闘いの緊張感を描く監督であることを示しているのだ。デヴュー作のコスチューム劇『デュエリスト/決闘者』(1978)や『エイリアン』(1979)以降、個性が強くでた作品に一貫して現れた資質である。そんな意味で、むしろ製作総指揮のロバート・ゼメキス(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ、『フォレスト・ガンプ』(1994))が撮った方が良かったのではないだろうか。


ハンス・ジマーの音楽が、ほのぼのしてうるさ過ぎず、良い感じだったことを付け加えておこう。


マッチスティック・メン
Matchstick Men

  • 2003年/アメリカ/カラー/117分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for thematic elements, violence, some sexual content and language.
  • 劇場公開日:2003.10.4.
  • 鑑賞日:2003.10.10./渋谷エルミタージュ/ドルビーデジタルでの上映。金曜11時40分からの回、302席の劇場は20人程度の入り。
  • パンフレットは600円。精神分析医や、リドリー・スコット家のメイドだった日本人女性の文章など面白い。
  • 公式サイト:http://www.matchstick-men.jp/ 予告編、ゲーム「マッチスティック・ワールド」など。ゲームは気軽に楽しめる。