シモーヌ


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

落ち目の映画監督ヴィクター・タランスキーは、わがまま女優の降板によって新作の製作中止危機に陥る。追い詰められた彼は誰にも内緒にヴァーチャル女優シモーヌで映画製作を続行、シモーヌは瞬く間に大スターとなるが・・・。


トゥルーマン・ショー』(1998)の脚本、『ガタカ』(1997)の脚本・監督を手掛けたアンドリュー・ニコルの新作は、彼らしく寓意に溢れたSF風味のコメディ・タッチ。前2作は作られた世界で管理される人たちの物語だったが、今度のは管理する側の物語。自らが作った女優をさも実在するかのように偽証拠をでっち上げるアル・パチーノの孤軍奮闘振りが可笑しい。パチーノはこういうコメディが久々だからだろう、負け犬監督の逆襲とでも言うべき演技を伸び伸びと披露している。彼ならではの大袈裟な演技も映画に合ったもので、楽しい見ものと言えよう。


タランスキーの元妻でスタジオ幹部役のキャスリーン・キーナーも適役。理性的でありながらも謎の新進スターに嫉妬心を滲ませ、しかも嫌味の無い好演。『アウト・オブ・サイト』(1998)とも『マルコビッチの穴』(1999)とも違う役柄でも幅の広さを感じさせ、しかも知的な個性と切れの良い演技が小気味良い女優だ。


やがて、謎めいて誰の前にも決して姿を現さない女優の人気は爆発、絶大なものとなり、偶像を支配するどころかタランスキーの手に負えなくなる。そこで彼は一計を案じこととなる。


フランケンシュタイン』のヴァーチャル・リアリティ版とでも呼べるこの作品、事態が管理者たる支配者の手をすり抜けてしまう辺りに、アンドリュー・ニコルらしさが感じられる。さらには無機的空間で悪戦苦闘する人間像と、独特の清潔感ある近未来像を観るにつけ、この人、監督2作目で既に個性が固まっているようだ。『ガタカ』でのフランク・ロイド・ライトの建築物や、広大な空間を生かした室内セットにはセンスを感じたが、今回もガランとしたサウンド・ステージを画面いっぱいに使って捉えたりで、映像的にも中々のものを持っている。特筆すべきは実際の女優をCGで加工したヴァーチャル女優の映像で、よくよく見ると肌の産毛など削除されている様子。これが現実とも非現実ともつかない不可思議さを作品に与えている。こういったデフォルメされた独特の感性は注目すべきものだ。


ガタカ』ではマイクル・ナイマンの悲壮で美しい弦の旋律が印象的だったが、今回はカーター・バーウェルが作曲を担当。シンセを生かしてリズミカル且つコミカル、透明感のあるサウンドでこれもさりげなく聴きものとなっている。


このように長所も色々あるのだが、残念なことに後半になるに従って物語は説教臭さが前面に出てしまい、好調さもトーンダウン、やがて釈然としない結末を迎える。安易なハッピーエンディングとも取れるし、皮肉なものとも取れるそれは、どちらにしても中途半端。ここはピリリとした何かが欲しかった。アイディアが面白い寓話こそ上手く着地させるのは難しいとは思うが、是非それを成し遂げてもらいたかったところだ。


エンドクレジットが終わると、最後まで観た観客へのサーヴィスの蛇足的映像がある。『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003)といい、最近はこういうのが流行っていますな。


シモーヌ
S1m0ne

  • 2003年/アメリカ/カラー/117分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for some sensuality.
  • 劇場公開日:2003.9.13.
  • 鑑賞日:2003.10.3./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘8/ドルビーデジタルでの上映。金曜13時20分からの回、238席の劇場は10人程度の入り。
  • パンフレットは600円。大スター・シモーヌを特集したファッション雑誌を模した表紙がセンスあり。但し内容は薄く、これが縁で結婚してから来日したニコル&シモーヌ役レイチェル・ロバーツの記者会見ももっと突っ込んでもらいたかったところ。
  • 公式サイト:http://www.simone.jp/ アンドリュー・ニコル&レイチェル・ロバーツ来日インタヴュー動画、予告など普通の内容もあるが、特筆すべきはシモーヌ・ファン・サイトがあること。各出演作品の紹介や掲載された雑誌の表紙、さらにリンクを辿っていくと各作品やタランスキー監督の公式サイトなぞまである凝り様。フェイクもここまでやると立派。