S.W.A.T.


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

管轄区内で起こる凶悪犯罪を阻止すべく、LAPDロスアンジェルス市警察)のSWAT隊長は思い切って優秀な若手警官を隊員に選抜する。訓練の成果もあって初出動も無事解決した彼らに、自分を逃がしたら1億ドルの報酬を与えると街に宣言したフランスの麻薬王の護送、という危険な任務が待ち構えていた。


頭の悪い映画である。
いや、頭を使うことを放棄した映画というべきか。


SWATとは、1970年代にLAPDを皮切りに全米の警察で導入されるようになった特殊部隊のこと。「Special Weapons and Tactics」の名前が示す通り、軍隊並の最新鋭の武器と戦略で人質を解放したり、強力な火器を持つ武装犯を鎮圧する目的で作られた部隊だ。アメリカ映画ではよく出てくるので何となくは知っていても、SWATそのものを描いた映画は珍しい。だからこの映画ではそこら辺を見せてくれるのが肝の筈。元となった往年のTVシリーズ『特殊狙撃隊SWAT』(1975)ではいざ知らず(何せ放送当時は4歳とか5歳とかだったし)、映画はそこが見ものとなる筈だ。


強力マシンガン強盗たちが立てこもる銀行を、SWATの若手2人が鎮圧する冒頭で、映画はいきなり迫力ある展開を見せる。俳優出身でテレビドラマ監督を経て、この作品で長編劇映画デヴューを果たしたクラーク・ジョンソンの手腕は、無駄なショットが気にはなるものの、無難な立ち上がりと言ったところだろう。


主人公の若手隊員を演ずるコリン・ファレルは、今回もイキの良さを見せ付ける。アイルランド訛りを封印し、アメリカ人になり切った彼は、激しいアクションも器用にこなしている。いや実際、ファレルのアクション映画もイケる、と思わせるのだ。若いし身体の動きも切れが良いし、演技もびしり決まっている。隊長役サミュエル・L・ジャクソンもタイプ・キャストとは言え、安定した演技を見せてくれる。麻薬王オリヴィエ・マルティネスもハンサムな顔に凄みを効かせて憎たらしい。


それに対してミシェル・ロドリゲスLL・クール・Jの隊員2人は、描き込み不足で2人の持ち味を生かし切っていない。アクション映画に新風を吹き込んでくれそうなキャスティングなのに、単なる脇役止まりとは勿体無い。


勿体無いのはこれに留まらない。観客がこの映画に何を一番求めるのか、製作者たちはあまり考えなかったようだ。


映画の前半は、冒頭の強盗事件解決で武器庫係に降格された主人公が、再びS.W.A.T.に復帰し、他の選抜された若手警官たちと訓練を受ける様を描いている。後半はくだんの麻薬王護送に襲い掛かる、1億ドル目当ての武装グループとの攻防戦。面白くなりそうじゃないか。


しかし映画はSWATという折角の題材を生かさなかった。前半の訓練も突っ込みが浅く、知られざるSWATの実情を詳細に見せてくれることなく、単なる爆発映画へなって行く。後半に至っては、特殊な戦略を見せることなく単なるドンパチに終始するので、派手な画面と対照的に普通の警官映画になってしまった。プロフェッショナリズムに徹した各人の得意分野を生かした技の数々で、チームワークで事件を解決していく胸のすくような方向にすべきだったろう。そこにこの企画最大の意義があったのではないだろうか。


そんな訳で題材にこだわらず、人物にこだわらず、但し派手な銃撃と爆発にだけは力を注ぎ、映画は平凡な仕上がりになっている。所々に挿入されるスローモーション映像は無意味で、過剰な音響は銃撃音とうるさいロックで鼓膜が痛くなるくらい。暴力描写で入場年齢制限が入ると興行に響くから、人は大勢死ぬくせに流血描写は殆ど無い。こういった最近の大味ハリウッド大作を象徴するような、低年齢層に媚びたような表現を観聴きするにつれ、マニアックな描写で埋め尽くして、こちらに「へぇ」を連発させるくらいの度胸が欲しかったと思うばかりだった。


それでも正直に言おう。この映画はどこか憎めないところもある。TV版の主役スティーヴ・フォレストが登場したり、TV版テーマ曲を登場人物が口笛吹いたり。工業製品でもそれなりの愛嬌はあるのだ。


S.W.A.T.
S.W.A.T.

  • 2003年/アメリカ/カラー/118分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for violence, language and sexual references.
  • 劇場公開日:2003.9.27.
  • 鑑賞日:2003.9.27./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1/ドルビーデジタルでの上映。初日の土曜21時30分からの回、452席の劇場はほぼ満席、ひょっとしたらチケット完売だったかも。
  • パンフレットは600円。SWATの歴史、映画で使われる銃器解説、元のTVシリーズの解説など、押さえるところは押さえた作り。もっと文章があっても良いくらいだが、最低限の内容にはなっている。こういうのが映画本編にあって欲しかった。
  • 公式サイト:http://www.swat-movie.jp/ パンフレットの増補した「S.W.A.T.研究所」や、「S.W.A.T.適正試験」が面白い。各国の特殊警察名と、日本の警察が扱った事件の紹介がされている。ロトクイズや、S.W.A.T.見学ツアー案内まである。