サハラに舞う羽根


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ヴィクトリア朝時代、大英帝国は世界の1/4を支配下に治め、各地に植民地を持つ国家であった。軍高官の父を持つ貴族の青年ハリー(ヒース・レジャー)は、友人たちと共に軍隊に入隊。しかし彼は、軍が北アフリカに出兵すると聞くと除隊してしまう。仲間たちから送られてきたのは、臆病者を意味する白い羽根。婚約者(ケイト・ハドソン)からも羽根を渡されたハリーは、親友たちの為に過酷なサハラを単身目指す。


1902年に書かれたA.E.W.メイソンの『4枚の羽根』は未読だが、IMDBで検索すると今回の2002年版が5度目の映画化、さらには1度TVドラマ化もされていることが分かる。映画化された年度は、1915年、1921年、1929年、1939年、TV版は1977年となっている。つまりTV版から35年ぶり、映画化に至っては63年ぶりの映像化という訳だ。これが証明するように、かつての人気小説も、現代に映画化するには内容が古過ぎたのではないだろうか。今何故この映画なのか、というのが観ていて分からないのだ。主人公が戦争で人殺しは嫌だ、殺されるのも嫌だ、と言うのは、当時はともかく現代では1つの価値観として認められているのだから。


こういった前提が古いのはまだ良しとしよう。引っ掛かりを感じつつも、時代が違うのだ、と観られた筈だ。しかしそれ以上にこの映画が問題なのは、ハリーが何故軍を辞めたのか、その明確な理由をしっかりと描けていないことなのである。サハラでの戦争が大英帝国に何の関係あるのかと疑問を抱いたからなのか、戦争が怖かっただけなのか。台詞でさらりと流し、主人公の動機とそれに対する感情移入の面で、この心理をきちんと描かないのは致命傷だ。また、ハリーと友人たちの絆の描写も弱い。ここにもっと力を入れれば、戦地でばらばらになった友人たちを救い出そうと悪戦苦闘する彼の行動が、もっと感動的に描けた筈だ。最後の30分が蛇足に感じられるのはその為だろう。自殺願望さえ抱いているのではないかと思わせる、ヒース・レジャーの鬼気迫る大熱演があろうとも、画面に入り込めなかった。


唯一、羽根を送らなかった大親友のジャック(ウェス・ベントリー)との関係は納得の良くものだった。ウェス・ベントリーも『アメリカン・ビューティー』(1999)と打って変わって、正統派美青年を頼もしく魅力的に演じていて、コスチューム・プレイの美形としても行けるぞ、と思わせる。


『エリザベス』(1998)に続いて大英帝国ものを描くシェカール・カプール監督は、全体を大作らしくまとめてはいる。特に後半における英国軍と騎馬軍団との戦闘場面はかなりの迫力。怒涛のように押し寄せる敵軍の2段構え3段構えの奇襲攻撃によって、英国軍が形作る正方形の陣地が崩壊していく様を俯瞰で眺めたショットが圧巻。序盤にある婚約披露の舞踏会場で作り出される正方形の陣と呼応していて、このような映像的な意匠も決まっている。オリヴァー・ストーン作品の常連ロバート・リチャードソンの素晴らしい撮影の力も借りて、カプールは数々のダイナミックな映像を作り出した。テンポも悪くなく、ドラマティックな出来事もパワフルにさばくので、全体には退屈しない。


しかし彼がドラマ的な興味を覚えたのは、物語の根幹を成す友人たちの救出劇でなく、別の部分ではなかったのでは、と思わせる。インド出身らしく植民地政策への厳しい視点を織り込み、かろうじて現代との接点を繋ぎとめている。そして、サハラでハリーが出会う奴隷出身の優秀な戦士アブー(ジャイモン・ハンスウ好演)との関係。こういったところに力が入っていたように見えた。


ケイト・ハドソンの現代調演技や、例によっていつかどこかで聴いたメロディをだらだら垂れ流すジェームズ・ホーナーの音楽も、映画の脚を引っ張っていたように感じられた。

力作でも、始終いびつで違和感を禁じえない作品だ。


サハラに舞う羽根
The Four Feathers

  • 2002年/アメリカ、イギリス/カラー/132分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense battle sequences, disturbing images, violence and some sensuality.
  • 劇場公開日:2003.9.20.
  • 鑑賞日:2003.9.21./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘5/ドルビーデジタルでの上映。日曜21時50分からの回、164席の劇場は20人程度の入り。
  • パンフレットは600円。監督・主要キャストへのインタヴュー、当時のイギリスのあり方についてなど。
  • 公式サイト:http://www.saharanimau.jp/ 予告編、カプール監督来日記者会見採録(テキスト)など。後者はどうやらパンフレットと同じ会見のようだ(Webがどちらかと言うと完全版っぽい)。