シティ・オブ・ゴッド


★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

サンバのリズムに乗り、街の市場では石の上で包丁を研がれ、鶏が解体されていく。殺られる前に逃げろとばかりに、一羽が脱走。市場の人が追い駆け、ギャングたちがそこに加わると、鶏逃亡に出くわしたのは一眼レフを持った一人の堅気の青年。彼は慎重に鶏を捕まえようとする。突然、後ろにパトカー来て、警官たちが降り立つ。正面には銃を持ったギャング連中が、後ろには警官たちが。のっぴきならない挟み撃ち。絶体絶命か? 青年はどうする?


細かいカットバックを重ねたスピード感溢れる冒頭で、観客はいきなりリオデジャネイロの貧民街のパワーと、映画自体が持つパワーのうねりに巻き込まれる。キャメラマンらしき青年と共に。そこでくだんの青年をキャメラは捉え、彼の周りをぐるぐる回りだすと、場面はいきなり20年ほど前にひとっ飛び。こうなったら映画に乗らないと損すること請け合い。1960年代から1980年代に実際に起こった、神の街と呼ばれる劣悪なスラムでのギャングの抗争劇を描いたこの映画は、紛れも無く傑作だ。


映画のスタイルは、マーティン・スコセッシの傑作マフィア映画『グッドフェローズ』(1990)を強く意識している。ナレーション、ストップモーション、スローモーション、細切れの編集、動きつづけるキャメラ。そしてノリの良いポップス。超クールな、あのスタイルだ。しかしCF出身というフェルナンド・メイレレス監督は単なる物真似でなく、縦横無尽に時代を行き来させる自らのスタイルにまで昇華させているのが素晴らしい。映画は時間を前後させつつ、悪の温床の興亡を描き切った。上映時間2時間10分の作品だが、内容は並の3時間の映画に匹敵する濃密さ。観客は圧縮・濃縮・操作された時空を傍観者として見つめることとなる。


街は年端もいかない少年たちが強盗・殺人を繰り広げる地獄の世界。10歳そこそこの子供がピストル片手に平気で殺人を犯す姿は悪夢のよう。希望の少ない貧しい世界では、生命の価値さえ安いのだ。


映画の内容も登場人物の殆どが逮捕されるか殺されてしまうもの。しかし下手な感傷に浸る暇も無く疾走する映画は、そこに住む住人たちの生き様そのもので、バイタリティに溢れている。映画自体も暴力描写を残忍に強調しないスタイルも良い。救いの無い話でも、乾いた空気とサンバのリズム、時折挿入される笑いの数々が、映画を娯楽作品としても成立させているのだ。


演ずる少年たちも殆どが素人で、しかも即興が多かったようだが、これがまるで演技に見えないのにも舌を巻く。準備期間が長かったとは言え、共同監督のカティア・ルンヂは子供たちから素晴らしい演技を引き出した。目まぐるしい映像と音楽がありながら映画がリアリズムを忘れていないのは、この演技のレヴェルの高さにもある。


原作は数百人もの人物が登場するという実録小説だとか。映画は幾人かの人物に焦点を絞っている。彼らが交錯し、それらが後の伏線となっていく様は圧巻。人間模様とは、人生とはかくも因縁の連鎖なのか。これは脚色が上手いのか、元々原作がそうだったのかは分かないが、脚本自体も凄く面白い。また、物語の傍観者としてキャメラマン志望の少年を狂言回しに据えていて、その彼も悪事の誘惑に駆られようとする様が、おかしみをたっぷり誘う。彼が単なる傍観者でなく、映画に深みと安心感を与える作りとなっているのも巧みだ。


苛烈な現実を描きながらも、明るさと娯楽を失わないバイタリティ。左程日本に入ってこないブラジル映画だが、これは正真正銘の本物だ。



シティ・オブ・ゴッド
Cidade de Deus

  • 2002年/ブラジル、フランス、アメリカ/カラー/130分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong brutal violence, sexuality, drug content and language.
  • 劇場公開日:2003.6.28.
  • 鑑賞日:2003.9.19./ヴァージン・シネマ六本木ヒルズ ART SCREEN/ドルビーデジタルでの上映。六本木公開最終日は金曜15時40分からの回、110席の小劇場は4割程度の入り。映画の半分くらいで何故か退出した20代男性2人組が居たけれど。この劇場は初めてなのだけれど、全体にゆったりとしていて心地良い。座席の前後が普通のシネコンよりさらに空いていて、普通に脚を組めるくらいだし。サウンドも良かった。THX認定なんだけど、本編上映前の静かなときは、他の劇場の重低音が聞こえるのね。
  • パンフレットは600円。人物相関図、来日したメイレレス監督インタヴューなど。
  • 公式サイト:http://www.cityofgod.jp/ 人物相関図、予告編、掲示板等。アートシアター系公開映画の標準程度の内容か。要は大作に比べるとちょい寂しい、てな感じだけど。