28日後...


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

研究所からの細菌漏洩により、奇病が世界中に蔓延する。血を媒介として感染した者は突如として見境なく凶暴となり、周りの人々を襲い出すのだ。昏睡から目覚めた若い男(キリアン・マーフィ)は世界の流転を知ると、生き残った人々と行動を共にする。


冒頭にある研究所の場面から冷え冷えとしたタッチが秀逸なこのSFホラー映画は、紛れも無くジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』(1978)の影響が色濃い仕上がりである。主人公たちが無人のスーパーマーケットで好きな食料を手に入れ放題する場面や、生ける死人のような感染者たちよりも人間どもの方がよっぽど性質(たち)が悪いというテーマなど、あの名作を想起させるところが幾つもあるのだから。狂人の1人を鎖で繋いで観察しようなどというのは、『ゾンビ』の続編『死霊のえじき』(1985)だろうか。叫び声を上げながら集団で走って襲い来る狂人の群れは、『スペースバンパイア』(1985)を思い出させる。


それでもこの映画は、数多く作られた『ゾンビ』の単なるまがいものの1つではない。ダニー・ボイルアレックス・ガーランドの『ザ・ビーチ』(1999)監督・脚本コンビは、巧みな手腕でオリジナリティを出すことに成功している。無人の地と化したロンドンの驚異的なロケ映像で観客を引きずり込むと、その後はショックとスリルの連打を繰り出す。一瞬の油断で狂人の血が体内に入ると、瞬時にして狂人と化す恐怖。迷わず殺さなければ自分がやられる緊迫感。それらを捉えるのは、低予算で仕上げる為に採用されたデジタル・ヴィデオ・キャメラだ。ディストーションの効いたギターと豪胆なリズムを叩き出すドラムスが、耳を聾する騒音すれすれの音楽として、小刻みで冷徹・硬質・粗い映像とシンクロし、異様な熱気を放つ。そこに放り込まれるのは、殆ど無名の俳優たち。それなりに知っている役者は、道中で仲間となるブレンダン・グリーソンと軍司令官役のクリストファー・エクルストンだけ。無名の役者たちの熱演のお陰で生々しさと臨場感が沸き、緊張感を高めている。


狂人たちを殺害する場面に、生ける死人を無差別に殺す『バイオハザード』(2002)のような不謹慎さが無いのは、いわゆる薄っぺらいゲーム感覚とは無縁の作りによるもの。登場人物たちの決死の状況における生への執着、絶望とかすかな希望にすがる感情が、簡潔に描けているからだ。そのかすかな希望を象徴するのが、「Hello!」という台詞。意味合いを微妙に変えて幾度か登場するこの台詞が、映画の根幹を成すテーマと考えると、ラスト・シーンもしっくりする。エンドクレジットの後に「もしも...」と題して映し出される安易なもう1つのラスト・シーンより、映画の構成としても本編のラストの方が良かった。


中盤にやや中だるみするものの、それ以外は全体的にスピード感のある、力作として認められる作品である。


28日後...
28 Days Later...

  • 2002年/イギリス、オランダ、アメリカ/カラー/114分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong violence and gore, language and nudity.
  • 劇場公開日:2003.8.23.
  • 鑑賞日:2003.9.19./シネクイント/ドルビーデジタルでの上映。金曜初回、227席の劇場は6割程度の入り。平日初回は1,000円均一なのだ。
  • パンフレットは600円。真っ黒なビニル袋に黄色いバイオハザードなラベルというアヤしい入れ物を開封すると、何の文字も無いオレンジのパンフレットが。最初はカラー写真がふんだんに使われ、途中からはカラー1色のみとなる。100ページ弱のうち、後半ほぼ半分をアレックス・ガーランドのシナリオ採録に使っている。全体に解説やインタヴューなども充実。やはりガーランド自身も、『ゾンビ』『死霊のえじき』から無意識に影響を受けたことを認めている。
  • 公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/28dayslater/main.html 予告編、クイズ、エンディング・テーマのミュージック・ヴィデオ(Blue Statesの"SeasonSong")、本編のクリップ、掲示板など、アート・シアター系映画に珍しく内容盛りだくさん。