パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


無味乾燥な大作を連打する製作者ジェリー・ブラッカイマーの新作、でも相当に久し振りの海賊映画の登場だ。左程観ていないこのジャンルでの個人的ベストは、今のところ『真紅の盗賊』(1952)。バート・ランカスター、ニック・クラヴァット主演、ロバート・シオドマク監督の、まじりっ気無しの100%娯楽活劇映画だ。原題の『The Crimson Pirate』が何故『盗賊』になるのか不思議なのはともかく、主役2人の海賊が悪党貴族相手に大立ち回り、サーカス出身らしくアクロバティックなアクションを見せてくれ、珍妙な秘密兵器の登場も楽しい映画だった。近年の大作海賊映画には『カットスロート・アイランド』(1995)があったが、娯楽アクションにあるまじき爽快感の欠落したあちらよりも、今度の新作の方が単純に楽しめる仕上がりにはなっている。何より、今までのブラッカイマー作品にあったキナ臭さが無いのが良い。映画としては色々と問題はあるにせよ。


普通は製作・配給会社のロゴが流れる筈の冒頭では、いきなり映画のタイトルが登場。ちょいと驚いた。その後に颯爽と、しかし滑稽に登場するジョニー・デップからして可笑しく、中々の滑り出しである。物語は呪われた海賊たちと因縁のある若い男女の闘いに、味方なんだか敵なんだか分からない元海賊船船長ジョニー・デップが絡むもの。海賊に囚われた若き娘を、勇気ある若者は救い出すことが出来るのか。


監督は『マウス・ハント』(1997)、『ザ・リング』(2002)で当たらずとも外れずの演出を見せたゴア・ヴァービンスキー。この映画でも特に個性とか特徴を見せず、いつも通りにそれなりの腕前を披露している。しかしこの手の痛快娯楽映画に必要不可欠な弾みが決定的に欠けている。序盤にあるオーランドー・ブルームとデップのチャンバラも不必要に長いのでイヤな予感がしたが、とにかく全体に冗長。場面運びや場面繋ぎにテンポが無い。内容の割りに143分もの上映時間を使っているので、編集でもっと刈り込むべきだった。ただ、全体に無邪気に楽しい雰囲気を漂わせたのは良い。所々に本家ディズニーランドの「カリブの海賊」そっくりな場面を挿入したり、ファミリー観客層にもアピールしている。


見せ場の1つとなっている各チャンバラ場面も、役者の技で見せるというよりも、細切れ編集で見せる最近の映画のスタイル。ロングショットでじっくり映しても、それに耐えられる殺陣をする役者が居ないと言えばそれまでだろうが、上手いという程でもないチャンバラを細切れ編集で延々見せられても、爽快感に欠けてしまう。


テッド・エリオット&テリー・ロッシオの脚本は、海賊、冒険、呪い、財宝、恋、船長の復権、剣戟や砲撃のアクション、と幕の内弁当のように盛りだくさん。物語を予想外に二転三転させて観客を楽しませよう、という魂胆はありがたい。但しありがたくないのは、その展開が物語としての面白さに繋がっている訳でもなく、何やらごたごたした感じなのと、要所で締まりが悪いところ。特にラストは、海賊となった者が彼を助けにくる展開にしなくては。王道でも良いじゃないか。正々堂々とやられると、観ている方も気持ちが良いものなのだから。


音楽のクラウス・バデルトは『タイム・マシン』(2002)では中々良い音楽を付けていたが、メロディ・ラインが薄いのは如何にもメディア・ヴェンチャーズ(以下、MV)の一員らしい。エンドクレジットを見ると補佐が7人も付いていて、しかもプロデューサーがMVのドンであるハンス・ジマーという布陣。つまりは音楽は如何にもMVということで、メロディの薄いハンス・ジマー音楽といういつものパターン。アクション場面でいきなりシンセの打ち込みが登場するのは『ザ・ロック』(1996)みたいだし、どうしてこうも工場で作られたテンプレートにのっとった音楽しか作れないのかね。


こう厳しく書いたが、娯楽映画としてはそれなりの水準には達している。豪華な帆船などのセットや、ILMによる大規模な特撮(特に水中を進む骸骨軍団の映像は良い)、それに何より役者の顔触れが見所だ。特にジョニー・デップは楽しい。アイシャドーに口髭、長髪を編んだヘアスタイルは、今までにお目にかかれなかった海賊のスタイルで可笑しい。思いっきりのケレンを配した台詞回しと動きは、緻密なプランというより本能で演じているように見えるし、それを観ているだけでも嬉しくなる。欲を言うならば、船長としての貫禄が欲しかったところ。一匹狼は似合っても、リーダーとしての演技にはクエスチョン・マークが付くのだ。対する悪の海賊のボス役ジェフリー・ラッシュは、狡猾さと滑稽さにそれとなく悲哀を滲ませ、こちらも芝居がかった芝居を楽しませてくれる。この2人の前では、オーランドー・ブルームとキーラ・ナイトレイの若い美男美女は初々しい。ブルームは正義感に溢れたハンサムで向こう見ずな若者を、ナイトレイも活発な貴族の娘を、それぞれステレオタイプの役柄をど真ん中の速球で演じていて清々しい。そのアプローチが役柄そのもので頼もしく、2人のヴェテラン俳優に食われっぱなしになることがない。この面々の力で、映画が幽霊船そのものになる事態から救っている。


パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち
Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl

  • 2003年/アメリカ/カラー/143分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for action/adventure violence.
  • 劇場公開日:2003.8.2.
  • 鑑賞日:2003.8.7./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1/ドルビーデジタルでの上映。公開1週目の金曜日のレイトショー、452席の劇場は6割程度の入り。
  • パンフレットは700円。オールカラーでスタッフ&キャスト紹介やプロダクション・ノートも水準程度の記述があるのでまぁ良いか。何故か首藤康之(バレエダンサー)と坂上みき(パースナリティ)のネタバレ対談あり。
  • 公式サイト:http://www.movies.co.jp/pirates/ 予告編や、数は少ないもののコンセプト・アート集、といったサイト独自のコンテンツがちょっと宜しい。オーランド・ブルーム・ファンサイトへのリンクもあり。