ミニミニ大作戦


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


マイケル・ケイン主演、ピーター・コリンソン監督の1969年のイギリス映画『ミニミニ大作戦』のリメイク。と言っても、オリジナルはまぁまぁ名の知れた映画ではあっても、ヴィデオも出ていないので観ていない人も多いのではないか。かく言う僕もその1人。リメイク版のヴィデオが出たら、一緒に出るかな。


さてこのリメイク版、オリジナルとの共通点は原題の『The Italian Job』、金塊強奪、そして目玉である交通渋滞の中でのミニを使ったカーチェイスくらいのよう。おっと、登場人物の名前も拝借しているのか。大体にしてすっとぼけたピーター・コリンソンと、『交渉人』(1997)でスリリングに楽しませてくれたF・ゲリー・グレイとでは味わいが違うのは分かろうというもの。だからまるっきりの新作とみて構わないだろう。


冒頭のヴェネツィアでの金塊強奪作戦は、運河というロケーションを生かしたボートチェイスと金庫破りを並行して描いていて、これが中々楽しめる。その後の裏切りから生き残った仲間が結集し、裏切り者からお宝を取り返そう、という展開。各人それぞれには、計画、運転、コンピュータ、爆薬、金庫破りといった得意分野があって、何だか昔のTV『スパイ大作戦』みたい。チームワーク重視の犯罪ものの雰囲気は嬉しい。


運転のプロ役ジェイソン・ステイサムの野卑な魅力、モス・デフの愉快な爆薬係、セス・グリーンのおたくなハッカーと、それなりに個性は出ているものの、今一つキャラが立っているとは言い難いのは、描き方がステレオタイプだから。計画担当のリーダー役マーク・ウォールバーグはぱっとしない。悪役エドワード・ノートンは、小物振りの役作りさ、とばかりに似合わない口髭を生やしているものの、まるでやる気の無いのがモロに伝わって来る始末。パラマウントとの契約によってイヤイヤながらの出演とはいえ、もうちょっと何とかならなかったものだろうか。そもそもノートンでは華が無いのだから、もっと愉快犯的な役者で良かったのでは、と思わせるくらいだ。こういった娯楽映画ではちょいと現実離れしたキャスティングでも良いのだ。心理描写の突っ込みもはなから期待しないのだから、善玉悪玉には艶のある役者を配し、脇役についてもシナリオで趣向を凝らすべきだった。


その一方で、このヤマで足を洗う、と最後の犯行に及ぶドナルド・サザーランドは、ハリウッド大作映画では詰まらない役が多いのに、手抜きせずにきちんと持ち味を出していて、さすが。意外な収穫はその娘役シャーリーズ・セロン。他の若手俳優が霞む程の熱演だ。この2人は描きこみ不足のシナリオを補い、役に肉付けをしている。


クライマクスは大渋滞の最中での金塊強奪。作戦方法は簡単に予想が付くので、どうせなら新手の作戦であっと言わせて欲しかったところ。それに肝心のミニが走り回る場面が少ないのも残念。折角の機動力を生かしてもらいたかった。中盤で屋敷内を駆けずり回る練習をしていたので、それを本当にやってもらいたかったものだ。


映画はそれなりにスリルと爽快感はあるが、観ている内に何やら段々と違和感が出て来た。話そのものは荒唐無稽だし、そもそもミニを使った強盗、などという奇抜で愉快、且つ合理的な作戦を描いている痛快作の筈なのだから、もっと「何かが」あっても良いのではないか。いや、誤解無きよう。娯楽映画としての水準は満たしている。僕が抱いた違和感というのは、根本的に小粋さに欠けている点と、中途半端に生臭さがある点。この2つだ。少なくとも、この映画に血まみれの斧を持ったギャング、なんて映像は似つかわしくない。むしろすっとぼけた味わいや粋を求めるのは、無いものねだりなのだろうか。


ミニミニ大作戦』は、上映時間の間は楽しめるけれどもそれ以上でもそれ以下でも無い、よくある娯楽映画にしか過ぎない。悪くはないけれども、本来あるべき些細で重要なものが欠落している。


ミニミニ大作戦
The Italian Job

  • 2003年/アメリカ/カラー/111分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for violence and some language.
  • 劇場公開日:2003.6.21.
  • 鑑賞日:2003.6.28./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘4/ドルビーデジタルでの上映。土曜レイトショーは21:15からの回、175席の劇場は約7割の入り。
  • パンフレットは600円。1969年版との比較はもちろん、ミニについての解説も簡単ながらあり。オリジナル版はクルマ映画だったらしく、特にクルマ好きでない僕もやっぱり観たくなってしまった。
  • 公式サイト:http://www.minimini-jp.com/ 来日したシャーリーズ・セロンとミニ大集合の六本木プレミア・リポート、予告など。ミニ公式サイトへのリンクもあり。