スター・トレック



★disc rating: A+

スター・トレック(1979)
Star Trek: The Motion Picture

  • 解説:門倉純一
  • 発売日:1993年4月21日
  • 発売元:Sony Records
  • 定価:税抜1,942円
  1. メイン・タイトル/クリンゴン艦隊の危機(6:51) Main Title/Klingon Attack
  2. エンタープライズ発進(3:29) Leaving Drydock
  3. 異星の雲状物体(5:00) The Cloud
  4. U.S.S.エンタープライズ(6:00) The Enterprise
  5. アイリーアのテーマ(愛のテーマ)(3:00) Ilia's Theme
  6. ヴィージャー(4:56) Vejur Flyover
  7. 新しい融合生命体の誕生(3:15) The Meld
  8. スポック遊泳(4:17) Spock Walk
  9. エンド・タイトル(3:17) End Title


故ボブ・ピーク描くポスター・アートのジャケットも美しい、ゴールドスミスのSFスコアの大傑作。低価格CDでの再リリースが嬉しい。勿論、往年の人気SFドラマ映画化の動機に『スター・ウォーズ』大ヒットの影響はあり、スタジオ上層部もジョン・ウィリアムスのようなシンフォニック・スコアを求めたということだが、作曲家は拒否。結果的に、かの音楽とは対称的に締まった、素晴らしいスコアを書き上げ、『砲艦サンパブロ』以来のロバート・ワイズ監督による起用に応えた。


もっとも今ではゴールドスミスの代表作の1つだが、当時はアレクサンダー・カレッジ作曲のテレビ版テーマを全く使わない新しい曲ばかりだった故、ファンからは好意的でなかったという。そのカレッジはゴールドスミス組の1人、後に『氷の微笑』などでオーケストレイションをしている。また、当初はスタジオから当時センセーションを巻き起こしていた『スター・ウォーズ』のような、シンフォニックな曲を求められていたという。だがゴールドスミスは断固拒否し、自らの個性を盛り込みつつ、映画に合った数々の曲を書き上げ、指揮した。


その音楽だが、高らかに金管が謳い上げるテーマ曲から、クリンゴン艦隊のバーバリズム溢れる音楽へと連なる『1.』から燃えてしまう。後者はリズムを前面に押し出しており、ゴールドスミスの個性が良く出ている。勇壮なエンタープライズのテーマ曲と『5.』のテーマが繰り返し使われるが、手を変え品を変えての編曲が上手く、さすが。『8.』のパワフルな無調スリラー音楽も凄い。シンセサイザーのスパイスも効いている。作曲家の音色への限り無きこだわりが伺えるアルバムでもある。


全体的に『スター・ウォーズ』とは対照的に締まって贅肉の無いスコアが、作曲者の個性を良く表わしている。安易な流行に流されず、圧力に屈せず、映像に対して効果的な音楽のあり方をひたすら考え抜いた、ゴールドスミスらしい作品である。


SF評論家・門倉純一の解説は、テレビ版から映画化の舞台裏でのエピソード、もちろんゴールドスミスの紹介など、全体にコンパクトにまとまっており、文字通り”解説”の手本。音楽そのものへの言及は少ないが、さすがカーク提督とエンタープライズ号再会場面を盛り上げた音楽には触れ、的確である。


このアルバムの製作当時(1979年)はまだ珍しかったデジタル録音で、確かLP盤ではその点について、故河野基比古の解説でも触れられていたように思う。実家で確かめねば。