NARC ナーク


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

麻薬捜査官(NARC)のニック・テリス(ジェイソン・パトリック)は、犯人追跡の際に一般人を巻き添えにしてしまう。停職処分中の彼に来た命令は、麻薬捜査の際に殺害された刑事カルベスの事件を解決せよ、というものだった。テリスはカルベスの相棒だったヴェテラン捜査官ヘンリー・オーク(レイ・リオッタ)と組み、事件の真相に迫ろうとする。


レイ・リオッタ製作による独立プロの低予算映画だったのが、試写を観たトム・クルーズの一目惚れによって大手パラマウントから配給され、脚本・監督のジョー・カーナハンデヴィッド・フィンチャーが降板したクルーズ製作の『M:I-3』の後釜に決定した、というのは正にハリウッド版シンデレラ物語。実際、冒頭の激しい手ぶれ撮影による犯人追跡のアクション場面から有無を言わさぬ迫力。クルーズの惚れ込みようも分かろうというものだ。


ザラついたドキュメント・タッチの撮影は、ウィリアム・フリードキンの傑作『フレンチ・コネクション』(1971)を思い出させる。冒頭の脚を使ったアクションはジョン・フランケンハイマーの『フレンチ・コネクション2』(1975)からの引用だろうか。照明不足気味の映像や、聞き込み場面でのスプリット・スクリーン(画面分割)の使い方なども、1970年代に作られた刑事映画の影響を強く感じさせる。


この映画が70年代の映画を思い起こさせるのはスタイルだけではない。


当時のアクション映画が最近のアクション映画と大きく違っていたのは、男たちの描写にも秀でていたことである。爆発と特撮に頼ることなく人物の内面をえぐることで殺気を描き、それ自体がアクションの引き金となって迫力を出していた。この映画には紛れもなくその殺気がある。漂白化された人物が特撮を武器に暴れるのと訳が違う。それが現代においてかえって新鮮味を感じさせるのは皮肉だろう。


テリスとオークの捜査は、迷宮でかすかな手掛かりを見付けたと思ったら、すぐ行き止まりにぶつかってしまう。しかしその繰り返しが、次第にじわり真相へと進むのだからスリリングだ。複数の証人が1つの事件を幾通りに語る「羅生門」スタイルも緊迫感がある。ラストで解き明かされる真相は映画をこぢんまりさせてしまったが、解答と同時にバサッと映画を終わらせる呼吸は上手い。アクション場面も迫力があるし、しかも物語上に必然性があるのは『マトリックス リローデッド』などと大違い。この監督はアクション映画が何たるか分かっている。105分という最近ではタイトな上映時間に無駄な場面を一切入れず、贅肉を削ぎ落とした感性も十分評価に値する。


ジェイソン・パトリックは、危険な仕事に嫌気が差しながらもそこから抜け出られずにのめり込む刑事を熱演していて、それがはまっている。『スピード2』(1997)なんぞの派手なハリウッド大作よりも、こういったリアルなアクション映画の方が余程向いている。彼のリアリティが映画で生きているのだ。レイ・リオッタも、人一倍正義感が強いがゆえに時に行き過ぎてしまうヴェテラン刑事を、でっぷり太って大熱演している。タフさの中に滑り込ませる繊細さ・人間味が役柄に厚味を加え、演技に深みと貫禄が出て来たのは収穫だった。


映画の内容自体には特に新鮮味はない。囮捜査、汚職警官、仕事にのめり込み過ぎるが故崩壊する家庭などなど、いつかどこかで観たものばかり。それでもここまで堂々と、しかも力の入った演出と演技で作ってあれば、思わずスクリーンに魅入ってしまうというもの。小ぶりだが久々にハードでリアルなタッチのアクション・スリラーとしてお勧め。


NARC ナーク
Narc

  • 2002年 / アメリカ / カラー / 105分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for strong brutal violence, drug content and pervasive language.
  • 劇場公開日:2003.5.24.
  • 鑑賞日時:2003.5.28.
  • 劇場:日比谷スカラ座2 ドルビーデジタルでの上映。水曜レディーズ・デイ、14時30分からの回、150席の劇場は4割の入り。
  • パンフレットは「都合により製作されていません」とのことで、残念ながら無し。カーナハンの映画製作の動機などについて知りたかったのになぁ。
  • 公式サイト:http://www.uipjapan.com/narc/ パンフレットは無くとも、こちらでキャスト・監督インタヴューが読める。製作動機もちゃんと紹介しているプロダクション・ノートや予告編、予告編、インタヴュー動画(カーナハン、トム・クルーズ、リオッタ、パトリック、バスタ・ライムスら。但し字幕無し)やフィルム・クリップなど、単館上映でもサイトはそれなりに丁寧な作り。配給会社がクォリティ・フィルムとして自負しているのが見える。