マトリックス リローデッド


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

前作から半年後。ネオ(キアヌ・リーヴス)は恋人であるトリニティ(キャリー=アン・モス)が死ぬ予知夢を見る。ネオが不安を抱く中、遂にマトリックスは人類最後の都市ザイオン襲撃を仕掛けた。果たしてネオたちは人類を救うことができるのか。そしてネオはトリニティの死を防げるのか。


1999年のスマッシュ・ヒットから4年、ラリーとアンディのウォシャウスキー兄弟によるSFアクションがパワーアップして戻って来た。前作は面白い映像は全て予告編でやっていたので、期待に胸膨らませて観た本編はその確認のみに近く、熱狂的な世評ほどは楽しめなかった。内容だって昔からあるSFの寄せ集めにしか過ぎず、新鮮味には程遠い代物に思われたのだ。スタイリッシュな映像に隠された実像は、SF、アクション、クンフージャパニメーションアメリカン・コミック、ジョン・ウー作品といった材料を、ヴァーチャル・リアリティだから何をやっても許されるとばかりに何でもかんでもブチ込んだ、オタクの妄想大爆発の映画だった。それをさも哲学的に味付けしたように見せたのが世間を見方に付けた勝因で、そんなに言われるほど大した内容じゃないだろう、この兄弟の作品だったら『バウンド』の方がよっぽど出来が良いんじゃないか、というのが正直な感想だったのだ。


ただ『マトリックス』が凄かったのは、パワー、技術力、格好良いスタイルでもって実写化した点にある。後に生まれた物真似映像の数々でその影響の大きさも分かろうというもの。そんな訳で続編への個人的興味は、その後山のように生まれた物真似映像を凌駕すべく、前作を如何に超えているか。そして前作のラストでスーパーヒーローを誕生させて一旦完結させた物語を、如何に語っているか。この2点だった。


まず映画の出来についての結論から言おう。まとまりは悪い。説明過剰かつ観念的な長台詞は退屈極まりない。ネオも強過ぎてスリルに欠ける。いい気になってスローモーション過多で各場面が長く、全体にも冗長気味。アクションに必然性が無く、手際の良い語り部だったら30分で終わってしまう内容。おまけに最後は尻切れトンボ。1本の映画としてはどう贔屓目に観ても出来が良いとは言えない代物だ。まとまりの悪さについては、第3部である『マトリックス レボリューションズ』と合わせて1本の映画と考えれば納得出来る。だから本当の意味での評価は11月まで待たなくてはならないのだろう。しかしその第3部への期待を煽り、しかも映像の持つパワーに圧倒されるという点では、これほど刺激的に満ち溢れ、興奮させられる映画も滅多にお目に掛かれない。


驚異的な映像の数々は、特撮慣れした観客のみならず、前作を繰り返し観ている観客にも楽しみを与えるだろう。但し基本的には前作の拡張版といった趣きなので、新鮮味には欠けるきらいがある。前半の見せ場であるネオ対エージェント・スミスヒューゴー・ウィーヴィング)の対決も笑ってしまうくらいに過剰、でも新味は薄い。しかし特撮アクションを支える技術力もさることながら、キアヌら出演者たちのクンフーも洗練されてきた。特にキアヌは成長著しく、動きも決まっている。加えて大スターらしい貫禄も付いて来たのも嬉しい。クンフー場面でやたらショットを細かく繋ぐ悪しきハリウッド映画(『ラッシュアワー』シリーズなど)と違い、じっくり引きの絵で振付を見せてくれるのも、「ちゃんと分かっているじゃないか」と言いたくなる出来映えだ。


そして映画は後半に凄まじいアクションを用意していた。高速道路を使った激烈なカーチェイス場面は、迫力と興奮、緊張で20分弱もの間アドレナリンが吹き出しっ放しだ。スローモーションの決めショットも例によって全てが決まっている訳ではないが、上手くいっているところはやたらクール。映像と音響が全てを盛り上げ、轟音立てて突き進む。特撮無しのカーチェイスの最高峰がジョン・フランケンハイマーの傑作『RONIN』ならば、特撮ありのカーチェイスの最高峰はこちらだろう。


物語はすっかり超人神話へと変貌し、モチーフの散りばめ具合は前作の『不思議の国のアリス』の比ではない。ギリシア神話キリスト教関連も絡ませ、プロットをスケール大きく拡散させている。前作で人類の被征服という設定から始め、終盤の超人誕生という個人の物語に収斂させていたのと対称的。ちょい登場の思わせぶりな夫婦(モニカ・ベルッチとお久しぶりのランベール・ウィルソン)など、次回作で活躍しそうな気になる登場人物も出てくるし、馬鹿馬鹿しいまでの荒唐無稽さもさらにエスカレート。情報量も多いので、一度観ただけでは見落としている枝葉の部分もありそうだ。こうなると、これから語られるのはどんな物語なのか、ここまで大風呂敷を広げているのであればどうやって落とし前を付けるつもりなのか、続きが気になってしまう。第1部と第3部を繋ぐ期待を煽るブリッジとしてはかなりのものと見た。


1本の映画としての出来云々ではなく、お祭り騒ぎの続編としての価値は十分にある。


マトリックス リローデッド
The Matrix Reloaded

  • 2003年 / アメリカ / カラー / 138分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for sci-fi violence and some sexuality.
  • 劇場公開日:2003.6.7.
  • 鑑賞日時:2003.5.24.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1 ドルビーデジタルでの上映。土曜夜21時からの先々行上映、452席の劇場はチケット完売。字幕版最終回である夜中0時からの回も完売で、吹替え版はまだ席があった模様。
  • パンフレットは900円、サイズはB4。レイアウトは前作同様に、読み易さ無視の格好良さのみこだわったもの。何せ日米ほぼ同時公開故、誰も本編を観ていない状況で書いているので、映画本編への具体的な解説は殆ど皆無。『レボリューションズ』も同じような状況になるのではないか。
  • 公式サイト:http://www.thematrix.com/ 最近のメジャー大作は各国語版を別々に作らず、1つのサイトで複数国対応にするのが流行りなのか(『X-MEN 2』もそうだったし)。画面右下の日の丸をクリックすると日本語ページに飛ぶが、予告とインタヴューぐらいしかない。英語ページにある全3部作、コミック、『アニマトリックス』など、膨大な情報量に圧倒されるしかない。