ドリームキャッチャー


★film rating: C+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


スティーヴン・キングの原作は面白いのに、何故映画化されたものは詰まらないのが多いのだろうか。まぁ、ファンにしてみればやはりというか、キングの同名小説の最新映画版は、予想通りであった。


雪深い山奥の小屋にて、いつものように集う幼馴染4人組。彼らが出くわした恐るべき怪異を描いたこの作品。予告なぞでは超自然恐怖ものと思わせておいて実は侵略テーマのSFホラー映画は、残念な出来になっている。


遭難していた男を助けると、彼は山小屋のトイレの中からひどい下痢の音と共に「大丈夫だ、心配ない」と言っている。しかし男が寝ていたベッドからトイレのドアまではおびただしい量の血が続いている。どう考えたってまともじゃない。つのる不安と恐怖。ドアの向こうでは、今、一体何が起きているのか・・・。


原作はこんな珍場面も出てくる、キングらしい悪趣味なブラック・ユーモアとお下劣パワー大炸裂の怪作(快作)。恐怖と笑いが団子になったあれよあれよの展開で、文庫本4冊の長丁場(といっても、実際には主に2〜3日間の出来事を綴ったものだが)を一気に読ませる作品だ。単なるホラーに留まらず、侵略テーマ、超能力、ウィルス感染、軍の暗躍、アクション、スリラー、友情もの、と正に具だくさん。このサーヴィス精神のかたまりのような小説を映画化したのは、監督・脚本家のローレンス・カスダン。『白いドレスの女』(1981)や『再会の時』(1983)などの佳作を手掛け、脚本家としても『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)や『レイダース/失われた聖櫃(アーク)』(1981)といったSFアクションの名作もある。つまりは人間ドラマもSFも経験済みな人選だった筈だが、題材が監督としての作風に合っていなかったようだ。しかも根本的な問題、監督の体力の問題か、まるでパワーと勢いが無い。


演出にパワーが無いだけでなく、複雑な構成の原作を上手く刈り込めなかった脚本にも相当問題がある。カスダンと名手ウィリアム・ゴールドマン(『明日に向かって撃て』(1969)、『大統領の陰謀』(1976)、『マラソン マン』(1976)など)のゴージャスな組み合わせは、幹を切り枝葉を残す過ちを犯し、原作を読んでいないと意味が分かり難いであろう部分が目立つものに仕上げてしまった。特に問題なのはペース配分を誤っている点。映画の中盤までをゆったりと描いているのに、小説の後半1/3を占める三つ巴の追跡戦を強引に20分程度に押し込んだ為に、盛り上がることなく唐突な展開との印象を受けるのだ。原作では大掛かりなのは中盤までで、終盤は追跡サスペンス/アクション/SF/ホラーな展開に収斂しつつも、キングならではの強引なまでの筆力で盛り上げていく。しかし映画にはその力強さがないので、単にスケール・ダウンした印象を与えてしまっているのだ。前半を短くしてその分後半にもっと時間を割き、全体にもっとコンパクトにまとめ上げ、上映時間130分以上という長尺を避けるべきだった。


その一方で、そもそも映像化が非常に難しいと思える小説に対し、果敢にも映画化に挑戦した姿勢は評価したい。「記憶の書庫」を映像化したり、主人公らの少年時代のエピソードを挿入したりして、原作を単なる娯楽小説でなくしていたドラマ部分を取り込み、映画に厚みを持たせようとする意志は認められる。しかし残念ながらそれらが映画を横道に迷走させているように見え、直線的な盛り上がりに欠けた結果を招いている。読む分には面白いディテールが、娯楽路線のSFホラー映画としては足を引っ張っているのだ。


また比較的原作に忠実な映画は、最後の最後にオリジナルの解釈を行い、そこが大きな矛盾として残ってしまった。しかも派手な視覚効果ショーに走ったものの、特撮技術が進化した今では大して驚きもしないのが致命傷。中盤における米軍ヘリ部隊総攻撃場面の迫力にも負け、クライマクスが面白くなかったのは痛かった。


誤りはキャスティングにも表れている。モーガン・フリーマンには狂気を秘めた軍司令官がまるで似合わない。原作ではカーツ大佐という『地獄の黙示録』(1979)のマーロン・ブランドーなこの軍人も、映画では名前もカーティス大佐になったせいか、危険な輩に見えないのだ。


結局この映画は、豪華なスタッフとキャストでもってしても、幾つもの過ちを犯すことは可能である、という見本になっている。面白い場面も幾つかあるし、名手ジョン・シールの深みのある映像も素晴らしいものの、ゲテ物映画好き以外には左程お薦め出来ない仕上がりだ。


ドリームキャッチャー
Dreamcatcher

  • 2003年 / アメリカ / カラー / 145分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for violence, gore and language.
  • 劇場公開日:2003.4.19
  • 鑑賞日時:2003.5.1.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘7 ドルビーデジタルでの上映。ゴールデンウィークのなか日木曜、神奈川県の映画の日、昼間の170席の劇場は6割の入り。
  • パンフレットは600円。普通の横開きでなく縦開きのレイアウト。カスダン・インタヴューなど。新田隆男の書く批評が何を根拠に「M・ナイト・シャラマンに対するおやじたちの回答」としているのか、意味不明な手前味噌な映画批評の見本。
  • 公式サイト:http://www.dreamcatcher-movie.jp/ 劇中にも登場の赤カビを模した画面デザインが気持ち悪くて面白い。予告編やプロダクション・ノートは珍しくないが、ローレンス・カスダンの息子で製作補を担当したマークによる撮影日誌はパンフレットにも無かったので貴重。こういう独自コンテンツはありがたい。同時上映の『アニマトリックス/ファイナル・フライト・オブ・ザ・オシリス』紹介ページあり。