デアデビル


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

子供の頃に放射能廃液を被ったマット・マードックベン・アフレック)は、2つの顔を持つ男。昼間は盲人の弁護士として弱きを助け、夜は特殊能力であるレーダー・センスを使い、赤いコスチュームに身をまとった謎のデアデビルとして悪党どもを成敗する。どこかすさんだ心情の彼の前に現れたのは、ギリシアの富豪の娘である宿命の恋人エレクトラジェニファー・ガーナー)。しかしデアデビルエレクトラの父親殺しの汚名を着せられてしまう。


このところ連発されるマーヴル・コミックの映画化は、そう、『X-メン』(2000)、『スパイダーマン』(2002)のスタン・リーの原作によるもの。そんな訳でリー本人もキャメオ出演し、『Dark Knight Returns』でバットマンをダークなヒーローものとして蘇らせて話題を呼び、ティム・バートン監督映画版に多大な影響を与えたフランク・ミラーまでも死体役で出演。なんてマニアックな知識が無くとも、この映画はそれなりに楽しめる。『X-メン』『スパイダーマン』に比べて相当に地味でありながらも。


この作品が地味なのは、マードックが音の反射によって物の形や所在を知ることが出来るレーダー・センスを持ち合わせている以外、肉体的に普通の人間であるからだ。バットマンも普通の男だが、何せあちらは超大金持ち。金にものを言わせて執事に新兵器を作らせていた。こちらは普通の弁護士なので資金力の差は明白。全部自前ゆえにあっと驚く大道具・小道具が無いのはやむを得ない。銃器類の飛び道具も持たないので、悪漢たちとの闘いはもっぱら盲人用ステッキが変形するヌンチャクなぞを使った肉弾戦なのだ。しかし派手さやスペクタクル性に欠けていても、時折はっとさせられるショットもあるし、レーダーセンスを逆手に取った悪党の逆襲など、ジョン・リー・ハンコックの脚本と演出は趣向を凝らしていて楽しめる。特にレーダーセンスの視覚化は秀逸なイメージだ。


人の良さそうな顔立ちに精悍さが加わったベン・アフレックの意外なはまりっぷりもさることながら、エレクトラジェニファー・ガーナーのバレエで鍛えられた優雅なアクション、全身筋肉の塊で部下に頼らずとも自力で戦える暗黒街のボス役マイクル・クラーク・ダンカンも楽しい。でも一番良いのは、今や飛ぶ鳥落とす勢いのコリン・ファレル演ずる、手にしたもの全てを凶器にしてしまう殺し屋ブルズアイ。思いっきり派手でエキセントリックな演技を心行くまで堪能しているのが手に取るように分かりる。憎たらしいが愛すべき狂人として観ているだけでも面白い。


しかし、役者の濃い面構えの印象に頼ったゆえに、主人公以外のドラマ部分の掘り下げはやや浅め。従ってドラマよりも物語優先で駆け足気味、その演出はいささか弱く感じられる。ヒーロー誕生までの物語を圧縮して描いているのも、『スーパーマン』(1978)や『スパイダーマン』が映画の序盤をほぼ使い切っていたのと対照的。その分ヒーローの活躍と危機が観られるのは有り難いが、お陰でじっくりと映画を堪能できなくなるという諸刃の剣。映画全体の印象が薄味になったのはこの点にありる。


派手な助演クラスに目を奪われることなく、主人公の心の動きもそれなりに描かれている。司法の手から逃れた悪党を叩きのめし、そんな自分を正義だと言い聞かせるデアデビル。だが己の行動に疑問を持ったとき、最後の最後に父の復讐に対する決断が清々しい。さり気無く主人公の成長を描いた脚本と演出は、ケレンに欠けてもそれを補うだけの誠実さがある。但し、誠実なだけでなく、この手のアクション・ヒーローものには力強く引っ張る演出が欲しかったところだ。


デアデビル
Daredevil

  • 2003年 / アメリカ / カラー / 103分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for action/violence and some sensuality.
  • 劇場公開日:2003.4.5.
  • 鑑賞日時:2003.4.5.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1 ドルビーデジタルでの上映。公開初日の土曜レイトショー、452席の劇場は6割程度の入り。大作なのにちょっと寂しい。やっぱり日本での知名度がたたったか。
  • パンフレットは600円。堺三保の原作コミックに関する文章がちょいためになる。
  • 公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/daredevil/ 予告編、スクリーンセーバーなどは定番だが、主役4人の解説はパンフレット以上に凝っている。こうでなくっちゃ。何故か「Special」コーナーが開設されていなくて、ちと寂しいじゃないか。