リロ&スティッチ


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


暴れん坊の宇宙生物スティッチが地球に逃亡し、両親を亡くして姉と暮らす少女リロと知り合う物語は、最近流行りのCGを殆ど使わない手書き感覚のアニメーションだ。このところ大掛かりなCG多用アニメで評判を落としているディズニーが(フルCGIの『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』はピクサー製作でディスニーは配給のみ)、そういう意味では久々に原点に戻った作品でもある。


最近のディスニー製アニメーション映画が忘れているんじゃないか、と思えるものがある。それはマンガ映画として単純に楽しめること。『美女と野獣』(1991)の大ヒット以来、大人も楽しめる高級志向の”アニメーション映画”が連発されているが、一方で単純明快に楽しめるマンガ映画が減った感がある。だが本作はディズニー映画としては極めて稀な暴れん坊を主役に据えることによって、破壊が巻き起こす笑いを提供している異色作となっている。後を追っかけてくる賞金稼ぎを必死に巻こうとする小ずる賢いスティッチは、画面狭しと暴れ回って騒動を引き起こして痛快。クライマクスはギャグとアクション連発になり、ラストはありがちながらも気分が良い。単純な線で構成された登場人物だけでなく、ハワイを舞台にした映画の背景が殆ど水彩画なのも、マンガ映画の趣があって良い感じだ。


その一方で、宇宙の彼方で遺伝子工学によって生まれた凶暴な青色の生物と少女の物語は、生活保護といった社会的問題を盛り込んだ内容で、根底に流れるものは極めてリアルである。リロの姉ナニは妹を養う為に、仕事で私生活で悪戦苦闘。怒りを押さえられない情緒不安定気味のリロに手を焼き、そのお陰で仕事をクビになり、新たな職探しをする羽目になる。その上、自分に扶養能力があるか否か見極めようとするソーシャルワーカーを相手にしなければならないのだ。次々とナニに襲い掛かる厄災は、切実な現実そのものなのである。


現実的なのはナニだけではない。リロとスティッチは孤独感を抱える身。共に幼いゆえそれに対処する術を持ち得ず、怒りへと変換して周りを破壊するしかない。


荒唐無稽な映画でありながら、なんのなんの、登場人物に対するアプローチはリアリズムなのだ。しかも劇中で起こる事件はナニを中心としていて、実は彼女が陰の主役でもある。大人も子供も楽しめる巧妙なアプローチと言おうか、何気に手の込んだシナリオだ。 これで追跡者側がもうちょっと利口だったならばスリルも盛り上がったのに、などと欠点はあるものの、映画全体に漂う”楽しければ良いじゃないか”的な無邪気なパワーも中々のもの。エルヴィスまで絡ませたハワイのご機嫌なムードも楽しめる。


そんな訳で、最近の『ラマになった王様』(2000)といい、この『リロ&スティッチ』といい、小品にも関わらず大いに笑って楽しめるマンガ映画が復活の兆しを見せているのは、何とも喜ばしいことなのだ。


リロ&スティッチ
Lilo & Stitch

  • 2002年 / アメリカ / カラー / 86分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG for mild sci-fi action.
  • 劇場公開日:2003.3.8.
  • 鑑賞日時:2003.3.29.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズつきみ野1 ドルビーデジタルでの上映。土曜19時台からの回、315席の劇場は5割程度の入りだった。
  • パンフレットは600円。小ぶりで値段もまぁまぁ。前半は子供向けに絵と大きいひらがなの文字、後半は一般映画並の情報量を大人向けに記載。お買い得ではないか。
  • 公式サイト:http://www.disney.co.jp/stitch/index.html ゲーム、壁紙、予告編、ハワイ観光局からのメッセージなど。