キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


トムとジェリーロードランナーとコヨーテルパン三世と銭型警部・・・。ライヴァル同士の追っかけ劇は観ていて楽しいものだが、このところ重い作品が続いていたスティーヴン・スピルバーグの新作もそれ。


両親の離婚をきっかけに小切手詐欺を働くようになったフランク・アバグネイル・ジュニア少年と、彼を追跡するFBI捜査官カール・ハンラティの実話を元にした映画は(カールは何人かの捜査官を1人にしたもの)、スピルバーグの久々に軽妙な味わいが出た作品だ。そう、映画デヴュー作『続・激突!カージャック』(1974)のような。この2本に共通しているのは、若さならではの行動とそれが招く苦さも描いた作品に仕上がっているということである。

主人公の行動に首尾一貫性が無いというのがこの作品の面白さ。次々と高給取りのエリートに化ける動機は行き当たりばったり。そのいちいちが画面もディカプリオも見栄え良く、エピソード自体も面白い。そして華麗なる転職の変遷の後、遂には・・・。


これってスーツを着てユニヴァーサル映画社社員の顔をして、毎日堂々とスタジオに通っていた、若き日のスピルバーグ自身そのものではないだろうか。少なくとも己の若き日の姿を主人公に投影しているのは間違いないだろう。映画を観ていると、楽しい物語の語り部としては当代きっての手腕を発揮する天才監督と、人が良さそうでいて巧みな話術で人を騙す天才詐欺師の姿が重なるじゃないか。だからだろう、映画全体にも若さと活気がある。ジョン・ウィリアムスのアヴァンギャルドなジャズをバックにした、1960年代の映画風アニメーションのメイン・タイトルからしてそう。わくわくさせられる出だしだ。ヴェテラン監督にしてこの感性。まだまだ若い。


カメレオンのような少年を、レオナルド・ディカプリオはリラックスした演技で、慣れない19世紀ギャングの役など忘れさせてくれる快演で魅せてくれる。次々と衣装替えして登場する様は、この作品をコスプレ・アイドル映画としてさえ成立させているほど。少年を追い駆けるFBI捜査官役トム・ハンクスは相変わらず上手い。黒スーツに冴え無い黒ブチ眼鏡の冴えないいでたちで、いつの間にやら少年と絆を深めてしまう役柄は、正にハンクスに打って付け。『ロード・トゥ・パーディション』(2002)のギャングも良かったけれど、こっちの方がずっと良い。この2人のリラックスしたタップダンスのように軽快な演技が、劇中の見所と言っても過言でない。


少年の両親を演じるクリストファー・ウォーケンとナタリー・バイの存在感も素晴らしい。特に元軍人のプライドを持ちながらも事業の失敗で失意の底にある父親役ウォーケンは、このところ強面な役ばかりで一種キワモノっぽいイメージだったが、それを覆す演技を見せる。役者陣が充実しているこの映画、彼らを観るだけでも価値があろうというものだ。


映画は家庭崩壊というスピルバーグらしい題材も扱っている。少年詐欺師の物語にでさえ、今まで自らしつこく扱ってきたテーマを盛り込んでしまうのは、これはもう執念と言うしかない。苦い題材もあるにはあっても、映画はほのかに甘い砂糖菓子のように喉元をすっと通り、溶けてしまう。軽いし印象には左程残らないけれども、娯楽映画としては十分な出来。しかし軽妙な演出にも関わらず、ひとつひとつのエピソードは快調でも映画全体として観るとややテンポが遅い。やや冗長なのだ。これは各エピソードをじっくり描いた為で、この内容ならば2時間以内に収めてもらいたかったところ。結果的に主人公の持つ軽快さを映画のテンポに持ち込み損ねてしまった。


そして何より気になるのは、演出の若さの一方で、このところ作品の毛色が変わりつつあるようにも思える点。スピルバーグは1980年代は観客の喜ぶ映画を撮っていた。しかし今はどうなのか。このところ気になるテンポ落ち気味も、純粋な娯楽路線とは言えなくなってきた作品群も、なんだか作家としての老い(良く言えば老成)が感じられるのだ。観客を意識せずとも撮りたい映画だけを撮っている姿勢が余計にそう思わせる。いや、好きな映画を撮らずに、観客に媚びを売れというのではない。矛盾しているようだが、映画そのものにも、老いと若さが同居しているようで、何とも奇妙な印象を受けるのだ。それがこの『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』も含め、面白さでもあり欠点でもあるように思える。


キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
Catch Me If You Can

  • 2002年 / アメリカ / カラー / 141分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for some sexual content and brief language.
  • 劇場公開日:2003.3.21.
  • 鑑賞日時:2003.3.22.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘9 ドルビーデジタルでの上映。公開2日目の土曜レイトショー、2館上映の内240席の劇場は5割程度の入り。
  • パンフレットは700円。オールカラーのノンブル33ページの大盤振る舞い。レイアウトもおしゃれで格好良い。スピルバーグ、ハンクス、ディカプリオへの共同インタヴュー、原作者フランク・アバグネイル・ジュニアの紹介など。
  • 公式サイト:http://www.uipjapan.com/catchthem/ 映画のタイトルバック・アニメをそのまま使ったデザイン。サントラ試聴、スクリーンセーバー、アイコン、日本向けの共同記者会見の動画など。