ダイ・アナザー・デイ


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


イオン・プロ製作のジェイムズ・ボンド映画製作40周年目の第20作目。映画は北朝鮮で暴れたボンドが捕まり、拷問を受けるくだりから始まる。捕虜交換で戻ってきたボンドは、自分を裏切った身内が誰か、突き止めようとする。


ピアース・ブロスナンのボンド4本目となるこの映画、シナリオの壊れ具合は前作から気になっていたが、今回はさらに拍車が掛かっている。北朝鮮の危険分子を描く内容が、ではなく、そもそも物語自体におかしいところがあるのだ。大体、なんでボンドと北朝鮮の危険分子を捕虜交換しなくてはならないのかが分からない。設定や場面場面でも子供だましなご都合主義が目立ち、例えば後半に登場する氷の屋敷とか、危機を脱出したボンドのそばを都合よく敵のスノーモービルが通りかかったりとか、そんなのあるかいなと突っ込みを入れる楽しみはある。かなりかっくいい新ボンド・カーのアストン・マーチンのあっと驚く仕掛けは、実際に米軍と民間企業で開発中、というエクスキューズが入るにしても、荒唐無稽の範疇に収まっている。


ところが映画は問答無用とばかりに、リー・タマホリ監督の豪腕でぐいぐい押しまくる。細かいことなんて良いじゃないか、荒唐無稽で何が悪い。どかんどかんとやってしまおうじゃないか。粗っぽい演出が何やらごつごつした質感を残し、ボンド映画としてはかなり異色というか個性的。シリーズとしてはかなり変わった質感が目立つ映画となっている。いや、何やら違和感すら感じられるのだ。


違和感というのは、リー・タマホリ監督とピアース・ブロスナンの個性が必ずしもマッチしていないことに起因しているのではないだろうか。ブロスナンは言わば生身の質感に欠けた浮世離れしたスターだ。整った容姿のせいだけでなく、演技そのものに味や奥行きがない。それがこういった現実逃避アトラクション映画にはぴったりの個性とも言える。少なくともブロスナンのスマートなボンド像は、これはこれでそう悪くはなかった。ロジャー・ムーアを彷彿をさせる軽さに若さとシャープさを加味した個性が、停滞していたシリーズに新風を吹き込んだのは事実なのだから。しかしタマホリ監督の生々しく動的な演出スタイルとブロスナンの無機的な個性は、水と油のよう。それは映画全編にも言える。このシリーズにしては珍しい濃厚なベッドシーンや、どろどろした親子関係などが監督の個性として浮いてしまい、アクションを上手くない合成でやたら目立つ誤魔化す手法が、何やら監督の足を引っ張っているように思えるのだ。


だからタマホリ演出が光るのは、中盤にあるしつこいくらいの大チャンバラ・シーンや、クライマクスの同時進行肉弾戦といった、言わば生身のアクション。特に前者はかなり迫力も見応えもある。


とまれ強いボンドにハリー・ベリー(決して”ハル・ベリー”にあらず)とロザムンド・パイクが演じる強いボンド・ガールたちが画面狭しと暴れまわるのだから、これはこれでお楽しみという訳だ。但し彼女たちとブロスナンとの相性は今一歩なのは、地に足の付いた美女だからだろう(おっと前述のタマホリとのマッチングみたいですな)。その一方で悪役にもうちょっと華が欲しいという思いもある。いやいや正体はまぁ意外性があってそれは悪くないのだけど、演ずるトビー・スティーヴンスにスケールが足りないということか。その一方で前作はRとして登場した秘密兵器係のQ役ジョン・クリーズが、一瞬、本当にほんの一瞬”バカ歩き”を見せてくれたり、過去の作品のパロディ場面の数々や、かつての秘密兵器がちらり登場したり、小技の効いたギャグで笑わせたりのお楽しみもある。こういった点ではくそマジメだった『ワールド・イズ・ノット・イナフ』に無かった娯楽路線として大いに評価出来よう。


主題歌はマドンナが歌っていて、彼女の新曲としてはともかく、ボンド映画のテーマとしてはメロディ感欠如の出来なのが何ともはや。しかもタイトルバックにくだんの北朝鮮でのボンド拷問が半分入るので、セクシー美女シルエットは半減、デザイン的にも余り宜しくない。


全体としては何ともいびつな出来映えなのは2作連続のこのシリーズ、ちょい奇妙な味の娯楽アクション映画として、前作以上に楽しめる作品ではないだろうか。


ダイ・アナザー・デイ
Die Another Day

  • 2002年 / イギリス、アメリカ / カラー / 132分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for action violence and sexuality.
  • 劇場公開日:2003.3.8.
  • 鑑賞日時:2003.3.8.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘3 ドルビーデジタルでの上映。公開初日、土曜レイトショー、237席の劇場はチケット完売。
  • パンフレットは800円。A4サイズよりもちょい大きめ、初回限定でカバー付き、しかもそのカバー裏に解説もある豪華版。写真も文章も両方多く資料性もあり、値段分の価値はある。
  • 公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/dieanotherday/ 内容はパンフレットと重複しているものの、デザイン、コンテンツ含めてかなり良い線いてるサイト。マドンナのヴィデオクリップや、日本人コミック作家の競作あり。