ビロウ


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

潜水艦が救助したのは、Uボートに撃沈された英軍病院船の乗組員、2人の男と1人の看護婦だった。彼らを受け入れてから潜水艦内では怪異が立て続けに起こり、独軍の執拗な攻撃から逃れながら、外部と内部の二重の恐怖にさらされることになる。


こういう映画を拾い物、というのだろう。


あなたはチャーリー・シーン主演の佳作SFスリラー『アライバル/侵略者』(1996)を観たことがあるだろうか? デヴィッド・トゥーヒー監督はどうやら捻ったSF/スリラーがお好きなよう。第二次大戦下の米軍潜水艦を舞台にした映画も、一筋縄ではいかない作りで楽しめる。


潜水艦ものでお馴染みの爆雷攻撃なぞもスリルたっぷりだが、映画は途中から戦争映画と怪談映画の2本立てへと変貌していきく。どちらも中途半端に終わらずにスリリングで、全体に漂う緊迫感は中々のもの。これはトゥーヒーの演出に拠るところが大きい。


演出でまず素晴らしいのは手際の良さ。映画の冒頭、グレーム・レヴェル作曲による低音のシンセドラムと陰鬱なシンセのストリングスの音楽をバックに、英軍哨戒機が海上のブイに捕まっている遭難者を発見するくだりなぞ、わくわくしさせられる。飛行士が魔法瓶からコーヒーを捨て、「助けを連れてくる」と書いた紙を入れて海に放り投げるシークェンスの映像・編集センスの素晴らしさ。この冒頭だけで、作品への期待を抱かせるのに十分だ。潜水艦に女が居るのは不吉という縁起担ぎを、船内を駆け巡る口伝えで観客に見せるダイナミズム。またヨーヨーで遊んだり、素手でオイルサーディンの缶詰を立ち食いしたりの、何気ない描写で意外にも小奇麗な潜水艦内に生活感を与えていて、細かい部分にまで神経が行き届いている。


映画の中盤以降は澱み無くスリルとサスペンスが続く。それも安手のショック演出や流血描写に頼らないのが良い。ダレとは無縁に最後まで観客の注意を引っ張っていく。


レクイエム・フォー・ドリーム』のダーレン・アロノフスキーの脚本は趣向を凝らし(ルーカス・サスマンとトゥーヒーとの共同)、戦争とホラーの要素を違和感無く混ぜ合わせている。左程有名でない役者ばかりなだけでなく、登場人物の描き分けそのものに失敗しているので、誰が主人公やら分からない、よって人物への感情移入ができないという欠陥はあるものの、予想の付かない展開が面白い。どうせならばオリヴィア・ウィリアムス演じるヒロインが魔女狩りの憂き目に遭うとか、ラストに出てくるのは幽霊船にすれば良かったのに、などという詰めの甘さもあるにはあるが、総体的に面白いスリラーとなっている。また、全ての謎を解明することなく終わらせるのは、『リング』など最近のハリウッド産ホラー映画もちょっと変わりつつあるのかな、と思わせたりした。


「海の底」での怪談話は、ひやひやさせること請け合い。こういったジャンル映画がお好きな方には一見をお勧めしたい。


ビロウ
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  • 2002年 / アメリカ / カラー / 105分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for language and some violence.
  • 劇場公開日:2003.2.22
  • 鑑賞日時:2003.3.7.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘4 ドルビーデジタルでの上映。新百合での金曜18時35分からの上映、175席の劇場は僕も含めて14人の入り。
  • パンフレットは600円。大きさは普通のA4サイズなのに、綴じているのが上部なので上下開きの横長になっているのが珍しい。潜水艦映画や海洋ホラー映画の歴史についての解説など、文章は中々面白いものもある。
  • 公式サイト:http://www.below.jp/ やはりプログラムとほぼ同内容だが、ソナー音が不気味なのはパンフレットに無い魅力だ。