ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔


★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


近年、これほど待ち望まれた続編は無かっただろう。そしてその期待にこれほど応えた映画も無いだろう。


大作3本全部を一気に撮影し、公開に合わせて順次映画を完成させていくという前代未聞の試みは、今回の作品を観る限りでは大成功だ。通常の続編ものにありがちなキャストの老けを気にすることもなく、画面のトーンが前作といきなり変わることもない(画面の殆どがデジタルで色調補正されていたじゃないかって? そういう話でなく、画面上の”空気”のことだ)。喜ばしいのは、映画がパワーダウンするどころか、むしろパワーアップしていること。善なるものと闇の勢力との全面的な激突を描いたこの第2弾、1作目を見逃した観客なんて構いやしないという製作者側の姿勢が、いきなり映画のスタートダッシュを成功させている。面白さと完成度では、『旅の仲間』よりもこちらの方が上ではないだろうか。前回までの粗筋や登場人物紹介といった、言わば物語の助走を阻害する要因が無く、冒頭から全速力で始まる映画は、3時間もの間に轟音立てて突き進む重量級の機関車だ。その機関部は監督ピーター・ジャクソンとスタッフ・キャスト以下の情熱と高度な技術によって絶えず激しく律動している。


映画に重量感があるのは上映時間の長さ、壮観な映像、そして何より分厚い人物模様による。登場人物によっては性格や行動がはっきりしてきた。リーダーとしての自覚をする者、今までは足手まといだったのに、知恵や勇気を得て機転を働かせていく者、ギャグ担当になった者(笑)。単なる記号から本当の意味での登場人物に変化していった者もいるのだ。


一方で単純に善悪どちらかには分けられない者も出てくる。以前の指輪所持者ゴラムは内面で善なるスメアゴルと邪悪なゴラムに分裂している。この餓鬼のような外見のゴラムは、優れたCGI技術により観客に嫌悪と憐憫を抱かせる、傑作クリーチャーだ。時折CG臭いときもあるが、殆どの場面では精巧に作られた特殊メイクアップと見まごう質感を維持している。CGがドラマの重要な部分を担っていて、技術と物語の幸福な融合が映画に厚みをもたらしているのだ。そして指輪保持者である主人公フロドは、悪の指輪に心を蝕まれていく。こういった設定が混沌とした戦乱の世を象徴し、映画に暗い影を投げ掛けている。


当然ながら原作と役者陣の力もあるが、ここは映画というメディアの力を信じて思い切った改変をしたライターたちの度量を称えたい。正直、原作は人物描写の点では大味で、普通の小説に慣れている者からすると随分と物足りなく感じられるときもある。しかし原作の枷を離れた人物たちが活き活きとして動き回り、苦悩する映画は、優れた人間ドラマそのもの。よって新登場のクリーチャーは続々登場なのにファンタシー色は薄れ、リアルな歴史映画の様相を呈してきた(だからと言って、ファンタシー映画の雰囲気が無くなった訳でもない)。映画の成功の要因の一つは、小説から離れたことにあると言えよう。これは小説と映画の持つメディアの違いを認識した上での脚色なのだ。


映画は三手に分かれた各登場人物の物語が交互に進む構成で、終盤1時間弱は並の大作3本分ものクライマクスが怒涛のように同時進行する。特に角笛城に立て篭もった主人公らが、邪悪な1万ものウルク・ハイ大軍団を迎え撃つ場面の迫力と緊張感たるや、大画面と大音響に金縛りにされてしまう。黒の軍勢は大地を埋め尽くし、夜中に地響きと唸り声を上げて城を包囲する。恐怖と緊張感が極限に達したところで、雨中の大合戦の火蓋が切って落とされるのだ。彼らは幾ら仕留められても城壁を乗り越え、破壊し、津波のように幾重にも押し寄せて来る。ここだけでなく、同時に他の個所でも迫力あるシーンが展開されていき、これほど壮観な映画は近年稀だろう。


エキストラや大セット、CGやミニチュアを多用した大スペクタクル場面の連打の後には、ちょいと心に残る良いシーンが待っている。ラスト近く、フロドの従者で親友であるサムの希望に溢れた演説は、前作のラスト近くを想起させ、観る者をほっとさせる瞬間だ。


ピーター・ジャクソンの演出は豪腕そのもの、ダイナミックなキャメラワークも健在だ。映画は善なる者を描くときよりも、悪の描写の方が強烈でパワーに満ち、魅力的でさえある。これは元々ピーター・ジャクソンの資質とも言えるが、映画のテーマを明確に伝える点でもかなったもの。悪の侵食著しいお陰で、登場人物が増えたのに前作よりもまとまり良く感じるのはこの為だ。剛速球を正面切ってずばずば投げ込み、しかも一本調子にならずに緩急付けての奪三振は、往年の大投手ノーラン・ライアンそのもの。これだけの複雑な映画をまとめ上げた手腕は十二分に評価されて然るべきである。


ところでこの3部作全体の構造が『スター・ウォーズ』旧3部作に似てきているのは、気付いている人も多い筈。黒の勢力が世界全体を覆いつつあり、幾多に別れた主人公たちの苦難の旅は続いてゆく。『帝国の逆襲』(1980)のように。いやむしろ、オリジンはこっちなのだけれど。


さぁ、残りあと1本だ。『Return of the King』が『Return of the Jedi』のような不出来な完結編にならないように、と書いたイギリスのレヴュアーと同じように祈ろう。でも彼らなら必ずやこの旅もやり遂げられる。そう信じて凱旋を待とうではないか。


ロード・オブ・ザ・リング二つの塔
The Lord of the Rings: The Two Towers

  • 2002年 / ニュージーランドアメリカ / カラー / 179分 /画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for epic battle sequences and scary images.
  • 劇場公開日:2002.2.22.
  • 鑑賞日時:2002.2.15.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1 ドルビーデジタルEXでの上映、先行レイトショー、453席の劇場はチケット完売。
  • パンフレットは700円。前半カラー部分は物語や人物紹介、後半は荒俣宏(作家)、若林ゆり(映画ライター)の常連(?)による文章に加え、押井守の長文コメント、用語集など。
  • 公式サイト:http://www.lotr.jp/ URLが前作公開途中からだったか、憶えやすいものになった。賑やかな掲示板も先行上映と同時に模様替え、3種類になっての登場。3部作全部の公式サイトなので、内容盛りだくさんで見た目も賑やか。
  • 前作で非難の的となった戸田奈津子の字幕は相当改善されていました。人物によっては口調が統一され、内容も設定に沿ったもの。お陰で1作目と続けて観ると、サムなんて性格が変わったように見えてしまうかも。但し文字数も緩和されたのでしょう、人によっては全部を読めない可能性もあります。