ウインドトーカーズ


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


ウインドトーカーズ』は、1943年のサイパン島を舞台にした、日本軍と闘うアメリカ軍内での男と男の友情を描いた戦争映画だ。アメリカ軍は文字を持たないネイティヴ・アメリカンナバホ族をスカウトし、日本軍に解読不可能なナバホ語を暗号として使用した。ナバホ族はコードトーカー(暗号兵)として戦地に赴き、彼らには常に護衛兵が付き添っていた。


最近までアメリカ軍の極秘情報だった事実を題材に、護衛兵の任務は生死を問わずコードトーカーを日本軍に渡さないこととしたこの映画は、男節が得意なジョン・ウー監督作品である。


男と男の友情、いざとなったらその相手を殺さなくてはいけないという葛藤、激しいアクション。いかにもジョン・ウー好みの、もしかしたら傑作になり得たかも知れない題材だ。香港から渡米後の作品で一番スケールの大きい映画でもある。戦闘場面も盛りだくさん、しかも『プライベート・ライアン』(1998)以前の戦争映画に似た撮り方で、それがちょっと懐かしい感じ。日本軍の描写も割かしまともなのは、監督が同じアジア人だからだろう。


しかしこの映画、どうにも作品の輪郭がボケている。これは大味なシナリオのせい。ジョー・バッター&ジョン・ライスという、『ブローン・アウェイ/復讐の序曲』(1994)のコンビは、折角の材料を生かしていない。もっと面白くなりそうな題材を練り上げることなく、派手なアクション場面を多くすることのみに腐心したようだ。結果的に、登場人物の感情の流れを分断するが如くドラマの合間に派手な撃合いと爆発が続くだけの、何とも奇妙な印象の映画にしてしまった。そもそもコードトーカーのアダム・ビーチが、戦争による心理的な傷によって自暴自棄になっている護衛兵ニコラス・ケイジに、最初から友愛の情で接するのがドラマ的盛り上がりを阻害しているのではないか。どうせならば最初は反目しつつもやがてやがて友情を築き上げる。しかしある事件によりビーチはケイジを憎むが、最後は固い友情に結ばれる。定番でもこういった流れにすればドラマティックだったろうに。


ウーの演出はドラマ部分で良い場面もあるにはあるが、全体に今一つ切れが無く、アクション場面も延々似たようなのが続くので緊張感が続かない。不出来な脚本のせいもかなりあるとはいえ、もっと編集段階で切り詰めて2時間以内に収めてもらいたかったところ。これで134分という上映時間は長い。むやみやたらと残酷な場面が少ないのは救いでも、どうも独自のケレン溢れる映像美学と戦場とは相性が良くないようだ。


ニコラス・ケイジは悪いときのニコラス・ケイジ的演技を見せる。自己憐憫に陥った自意識過剰な仕草はうんざりだ。むしろケイジよりもアダム・ビーチの笑顔としっかりした演技に目が行く。また、最近見かける機会の少なかったクリスチャン・スレーターが、久々に魅力的な演技を見せてくれるのも収穫だ。印象に残る場面はビーチとスレーターが独占していて、消化不良気味にもたつく映画に爽やかな風を吹き込んでくれた。この映画でのスターは間違い無くこの2人だ。


ウインドトーカーズ
Windtalkers

  • 2002年 / アメリカ / カラー / 134分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for pervasive graphic war violence, and for language.
  • 劇場公開日:2002.8.24.
  • 鑑賞日時:2002.8.31.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘6 ドルビーデジタルでの上映。土曜午後の回、170席の劇場は7割程度の入り。
  • パンフレットは600円。戦争映画に関する考察文と、ナバホ族と第二次大戦の歴史解説が資料価値あり。
  • 公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/windtalkers/ 来日したケイジ、ウーの記者会見、太平洋戦争マップ、予告編など。