ハリー・ポッターと秘密の部屋


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


本編の前には来る春休み公開の超話題作『ロード・オブ・ザ・リング二つの塔』の予告が付いていて、まずはご機嫌。肝心の本編は2時間41分という長尺なのに、飽きることはなかったが。


世界一有名な魔法使いの少年の、ホグワーツ魔法学校の2年目が始まる。しかし校内には不穏な影が忍び寄り、ハリーたちは「秘密の部屋」にまつわる忌まわしき過去を探っていくことになる。


監督クリス・コロンバス、すっかり声変わりしたハリー役ダニエル・ラドクリフ以下、主要スタッフとキャストは、『賢者の石』とほぼ同じ面々だ。前作は原作を先に読んでいたので、小説にあったテンポの良さが無くなった映画に忍び寄る退屈さの影と、可も無く不可も無い作りに物足りなさを感じた。今回は派手な見せ場も多く、しかも原作は未読。それが功を奏してか、意外にも全体にホラータッチの作品に退屈することはなかった。


それでもクリス・コロンバスの監督としての凡庸さは隠しようがない。新任のロックハート先生役のケネス・ブラナーが折角面白い芝居をしているのに、コメディ演出のタイミングが下手糞で余り笑えない。全体のテンポは悪くなくとも、締めのクライマクスはやや冗漫だったり、どうもピリとしたところが無い。人気シリーズの映画化として、第1弾・第2弾は原作を尊重してファンの反感を買うのは回避し、無毒無臭な監督としての最低限の責務は果たすのに留まっている。


しかしこのシリーズ、ファミリー映画としてはそろそろ限界なのではないだろうか。巻を重ねるに従って長くなる原作を、忠実に映画化しているのが売りだが、2時間40分はいかにも長い。その為に次回作の監督は、アルフォンソ・キュアロン(『大いなる遺産』(1997)、『天国の口、終りの楽園。』(2001))という個性派監督の思い切った起用に繋がったのだろう。むしろそっちに期待してしまう。


特撮を駆使した映画としての見せ場はふんだんにある。クィディッチの場面はパワーアップしているし、中盤の夜の森のくだりは不気味な迫力もあり、クライマクスの強敵との闘いもなるほど大掛かりだ。何だか過去のB級SF映画の焼き直しみたいな場面も多いのに、観ている間はそれなりにハラハラする。


しかし肝心の物語には色々と欠点が見え隠れしている。ハリー以外の登場人物にまるで見せ場が用意されていないのも寂しい。前作で絆を深めたロンとハーマイオニーらクラスメイト、ロビー・コルトレーンが好演したハグリッド、アラン・リックマンのスネイプ先生、マギー・スミスのマクゴナガル先生。皆、顔見せ程度に出演しているだけで、折角の名優揃いも宝の持ち腐れ。これでは遺作となったダンブルドア校長役リチャード・ハリスも浮かばれない。妖精ドビーも狂言回しかと思いきや、本筋にまるで関係無いというでたらめさ。また、全体に説明不足だったり、逆に説明不足だったり、バランスの悪さが目立つ。


ジョン・ウィリアムズの音楽もぱっとしない。前作はテーマ曲も含めて音楽過剰でうるさかったのに対し、今回はだらだら曲を付けているだけでメリハリに欠ける。ハリー以外のテーマ曲も印象に残らない。スピルバーグ&ディカプリオの新作『Catch Me if You Can』(2002)に時間を取られ、オーケストレイターのウィリアム・ロスを助っ人に借り出したものの、結局は自分で色々細かく指図したのだから、これはウィリアムスの責任だろう。


前作同様にスチュアート・クレイグのプロダクション・デザインは見事な出来栄え。初登板の名撮影監督ロジャー・プラットはさすがに素晴らしい手腕を見せ、クレイグのアートをダークな映像に美しく収めていて素晴らしい。結局この映画で一番楽しめたのは、プロダクション・デザインも含めた世界の作り込みと、役者たちの上品なキングス(あるいはクイーンズ)・イングリッシュの心地良い響きだった。


エンドクレジット終了後のオチは中々愉快なので、お見逃しなきよう。


ハリー・ポッターと秘密の部屋
Harry Potter and the Chamber of Secrets

  • 2002年 / アメリカ / カラー / 161分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG for scary moments, some creature violence and mild language.
  • 劇場公開日:2002.11.23.
  • 鑑賞日時:2002.11.16.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1/ドルビーデジタルでの上映。土曜夜の先行レイトショー、452席の劇場はチケット完売。WMC新百合ヶ丘は全部で4つの小屋があるのだが、当日は内4館で上映という規模。吹替え版も上映されていたので、レイトショーなのに小学生の子供がいる家族の姿も多数観られた。
  • パンフレットは700円、日米同時公開なのでネタが無かったからか、文章はキャストとスタッフのプロフィール、粗筋だけ。あとは大きな写真の数々と関連商品の広告ページだけ。オールカラーの写真は子供に喜ばれるかも知れませんがね。大人にとっては値段の割りに買う価値はありません。
  • 公式サイト:http://harrypotter.warnerbros.co.jp/ ゲーム、予告編、インタヴュー動画、バナーなど。ちょっと普通の公式映画サイトを赴きが違うのは、やはり子供を狙っているから。