ザ・リング


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


鈴木光司原作、中田秀夫監督の大ヒット作『リング』(1998)のハリウッド・リメイク版。呪いのヴィデオテープを観た者は1週間で死んでしまう。自分のみならず、幼い息子までもがその映像を観てしまった為、女性記者は死の手から逃れるべく真相を突き止めようとする。


原作はおろかオリジナル版も未読/未見なので、純粋に1本の映画として観てみた。


血糊や単なる脅かしではなく、雰囲気で怖がらせようとする演出には好感を持った。監督はゴア・ヴァーヴィンスキー。『マウス・ハント』(1997)や、病気で途中降板したサイモン・ウェルズを引き継いだ『タイムマシン』(2002)などで、良く言えば無難な、悪く言えば無個性な演出を見せていた人だ。今回も特に冴えは見当たらないけれども、全体に不条理で陰鬱な雰囲気は中々のもの。テンポも早過ぎず遅過ぎず、まずまずだ。


『隣人は静かに笑う』(1999)、『スクリーム3』(2000)、『レインディア・ゲーム』(2000)などで、細工に走った小賢しさを披露したアーレン・クルーガーの脚本も、思っていたよりも遥かにまっとうな出来映え。論理性とか辻褄合わせよりも、純粋に恐怖を描こうとしているのが成功している。但し、高橋洋の書いたオリジナル版脚本にかなり忠実だという評判は聞き逃せないだろう。ここでは、上手くアメリカの風土にアレンジした手腕を評価すべきなのかも知れない。


呪いのヴィデオ映像はこれが中々凝っていて、巧妙に施されたデジタル処理などを観るにつけ、ハリウッドの技術力の高さを見せつけるものだ。巨匠リック・ベイカーの手による、恐怖に歪んだ顔の死体や、水を吸ってぶよぶよになった皮膚を模した貞子ならぬサマラのメイクなどもさすが。精巧なメイクや特撮を出し過ぎないのも効果を上げている。


それでも、思わず悲鳴を上げたくなるなどという北米での評判ほどでないのは、日本人から観て外国映画に感じる、どこか他人事と受け取ってしまうこちらの見方によるものか。それとも、やはり凡庸な演出家の手腕によるものか。また映像や内容も、いつかどこかで観たり読んだり聞いたりしたものが多いので、オリジナリティよりも過去の作品を上手く引用したな、と感じた。公平に見て娯楽映画として良く出来た作品だし、それなりに怖がらせて面白く見せてくれるが、それ以上でも以下でもない。


主演のナオミ・ワッツは『マルホランド・ドライブ』(2001)で鮮烈な印象を残したが、今回も熱演を見せてくれていて、映画の求心力となっている。彼女演じる主人公の真剣さと切迫感が物語を引っ張るだけでなく、完璧ではない母親像という人間味も加味していて、相変わらず素晴らしい。しかし残念なことに、彼女の緩急自在な演技に比べるとほかのキャストがいかにも弱い。登場人物を絞り込んだ作品なのだから、ナオミ・ワッツに対抗出来るだけの役者が必要だったのではないか。少なくとも、元夫役には印象の薄いマーティン・ヘンダースンではなく、もっと強力な役者を配するべきだった。


音楽はこのところ『グラディエーター』(2000)、『ハンニバル』(2001)などの大作でミソを付けていたハンス・ジマー。ここでは全体に静かな背景音的な曲を流し、要所は金切り叫ぶヴァイオリンで恐怖を盛り上げる。久々に作曲家自身の格に合った音楽、しかも純粋な本格ホラーというと初めての担当だ。それにしても『アザース』(2001)といい、『サイン』(2002)といい、これといい、最近のホラー映画は『サイコ』(1960)のバーナード・ハーマンを意識した曲が目立つ。やはり先人は偉大なのだ。


ザ・リング
The Ring

  • 2002年/アメリカ/カラー/125分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for thematic elements, disturbing images, language and some drug references.
  • 劇場公開日:2002.11.2.
  • 鑑賞日時:2002.11.2.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘8/ドルビーデジタルでの上映。公開初日の土曜レイトショー、238席の劇場は8割程度の入り。
  • パンフレットは500円、表紙と裏表紙の写真が絶妙に変えられている。袋とじのページにはモチロンあの人役の紹介なのだが、物凄い写真は全くありません。
  • 公式サイト:http://www.thering.jp/ サイト全体のデザインは北米版をローカライズしたもの。イヤァな気分にさせてくれる。凝った作りの反面、見たい情報をすぐに探し出せない難点も。呪いのヴィデオ映像も見られるので、興味ある方は部屋の電気を消して観てみよう。