トリプルX


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


普通「XXX」ってハードコア・ポルノの呼称なんだが、本国アメリカではPG-13指定なのが何だか可笑しい。「ポスト007は俺だ」とばかりの殴り込みアクション映画は、さしずめヤンキー版(アメリカ人じゃなくて、不良の方ね)ボンドと言ったところだろうか。本家への対抗意識もちらちら垣間見える痛快作となっている。

XXXことザンダー・ケイジ(ヴィン・ディーゼル)は、法律無視の危険なスタントをネットで流す無鉄砲野郎。ところがNSAにスパイとしてスカウトされた彼は、刑務所行きかスパイかで選択を迫られ、イヤイヤながらテロ組織へと潜入する羽目になる。NSAは送り込んだスパイが次々と殺されたので、毒には毒をとばかりにザンダーを起用した訳。俺サマ主義だったザンダーはチェコのテロ組織の実態を知り、大量テロを防がんと立ち上がる。


とにもかくにも脚本の出来がどうのとかよりも、ディーゼルの存在感とこれでもかのアクションが見ものとなっている。ごついガタイにスキンヘッド、全身の刺青、と如何にもワルぶっているのに、目元が優しく、どことなく愛嬌のある顔立ちが特徴のヴィン・ディーゼルは、この役の為に生まれてきたようなもの。頼れるあんちゃんとばかりに口も達者だが行動も早く、どんな危機的状況でも度胸と冷静さで潜り抜ける。前作『ワイルド・スピード』(2001)でカリスマティックな魅力を振り撒いていた彼は、この作品で大作の主役を張れることを証明した。


そして何より魅力的なのは、ザンダーがエクスストリーム・スポーツ(X-スポーツ)の達人という設定の為、次から次へとスポーツを使ったアクションが観られること。パラグライダー、モトクロスバイクスノーボード、ロッククライミング等で危機を脱出していくのが痛快だ。どうせならば映画の前半では主人公は銃で人を撃たないのだから、最後までその路線で押していってもらいたかった。そうすれば余計に007との差が際立っただろうに。


この映画が007を意識しているのは明白だ。冒頭でスーツにボウタイのスパイが殺害される場面からしてそうだし、素性の知れぬ美女とベッドインするのもボンドがAIDSの時代以降に大人しくなったのと対照的。当然、本家のように秘密兵器もぞろぞろ出てくる。『007/私を愛したスパイ』(1977)のユニオンジャックのパラシュートに対抗せんと、星条旗版パラグライダーまで出て来たのには笑った。その割には、映画全体でアメリカ万歳になっていないのが面白い。国家を背負っているという気負いも無く、あくまで個人の価値観で行動するところが観ていて爽快なのである。


主人公の首根っこを掴まえて強制的にスパイをさせるサミュエル・L・ジャクソンは、いつもの通りに上手いのだけれど、もうちょっと違う役も観たいとも思わせるし、敵役マートン・チョーカシュは悪役としての魅力に欠け、それ程印象に残らない。こういった脇役は本家の方が面白い。じゃぁ、やっぱり007の方が良いんじゃないかって?ちょっと待ってもらいたい。ボンドガールに対抗してのザンダーガール(?)役アーシア・アルジェントが強烈な魅力を放っているのだから。不良に対抗するのはゴス娘とばかりのキャスティングなのか。ディーゼルにはミシェル・ロドリゲス(『ワイルド・スピード』、『バイオハザード』(2002))ぐらいしか似合わないのではと思っていたのに、これは意表を付いたキャスティングだ。『サスペリア』(1977)などのホラー映画の巨匠として一部に熱狂的ファンを持つダリオ・アルジェントの娘としても有名で、また女優・監督・脚本家として近年活躍しているアーシアは、今回テロ組織ボスの愛人として出演。イタリア人の彼女にとって、鮮烈なハリウッド・デヴューを飾った。アクション自体は少ないのに動きに切れがあるというか、存在感でもってアクション・ヒロインになっているのが面白い。ディーゼルの偽タトゥーに対し、こちらは本物を見せてくれるおまけ付き。この2人の存在感が映画の中で大きいので、脚本が弱くとも映画に1本芯が通っているのである。


2作続けてディーゼルと組んだロブ・コーエン監督の演出はいつも通りにテンポにやや難があり、特に冴えは感じられないものの、スケールの大きなアクションの連打で飽きさせない。007に限らず『大脱走』(1963)などのパロディも盛り込み、楽しく仕上げている。『フロム・ヘル』(2001)、『スパイ・ゲーム』(2001)、『ブレイド2』(2002)、『ジャスティス』(2002)など、最近の大作がロケされることの多いプラハの街並みも効果的に取り入れている。


但し主人公の活躍を見せるアクションばかりなので、映画全体の中で物語の印象が薄くなっている。こういったところに脚本の弱さが露呈しているのだが、まずアクションありきで物語は二の次なのは、最近の映画の傾向ではある。


音楽はランディ・エデルマンのシンフォニック・スコアもあるにはあるが、007ほど印象的なメイン・テーマはなく、全編今風のストリート・ミュージックがガンガン鳴り、映画全体を若者向けとアピール。若者に媚びている、などと映画全体をバカらしく思う向きもあろうが、この路線はひとまず成功した。ディーゼル個人の魅力におんぶに抱っこなので、007ほどの長寿シリーズにはならないかも知れないけれども、今のところディーゼル&アーシア共演予定の次回作にも期待しようか。


トリプルX
xXx

  • 2002年 / アメリカ、チェコ / カラー / 124分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for violence, non-stop action sequences, sensuality, drug.
  • 劇場公開日:2002.10.26.
  • 鑑賞日時:2002.10.19.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズつきみ野1 ドルビーデジタルでの上映。先行上映土曜午後の回、315席の劇場は3割程度の入り。つきみ野よ、潰れないでおくれ。
  • パンフレットは500円、600円以上が当たり前となりつつあるこのご時世でこの価格。内容が若干薄いのは致し方無いか。オールカラーで頑張ってます。ディーゼル来日記者会見採録あり。
  • 公式サイト:http://www.xxx-triplex.com キャスト&スタッフ紹介、予告編、ディーゼル来日記者会見&インタヴュー、エージェント・サイトなど。予想していたほど動画バシバシではなかったです。