ロード・トゥ・パーディション


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


一切の贅肉が殺ぎ落とされ、研ぎ澄まされた映画と言おうか。ストイックな「子連れ狼」ギャング版の登場だ。

舞台は1930年代アメリカ。アイルランド系ギャングの殺し屋マイケル・サリヴァントム・ハンクス)は、組織のドン・ルーニーポール・ニューマン)の息子コナー(ダニエル・クレイグ)に妻子を殺される。復讐を果たそうとするサリヴァンの逃避行は、生き残った息子マイケル(タイラー・ホークリン)とのどこか疎遠な絆を深める旅でもあった。


プロット自体は至極単純だ。冒頭だけでもおおよその結末は予想が付きやすい。しかし『アメリカン・ビューティー』(1999)で監督デヴューしたサム・メンデスのこの第2作目は、淡々とした見掛けに騙されてはいけない。


サリヴァンルーニーと親子のように仲が良く、実の子同様に可愛がられている。2人でピアノを弾く場面が象徴的で、ハンクスとニューマンという2人の名優の表情を見れば、この擬似親子の繋がりが深いことが伺える。一方でルーニーは、出来の悪い息子コナーが組織の足を引っ張りながらも、実の息子故切り捨てることが出来ない。不祥事を攻め立てても、結局は抱擁してしまうのだ。だからクレイグがサリヴァンをどこか憎むのは必然であり、そういった説明が劇中で無くとも、その行動を見れば一目瞭然だ。


ルーニーとは親子同様の関係だが、サリヴァンは息子マイケルとの仲がしっくりしていない。しかし少年は父親の正体を殺し屋だと知り、その後の惨劇を通して、2人は互いに心を開いていくことになる。


映画は必要最低限の台詞と役者の表情で感情を表現し、父と息子の関係を重層的に描いていて、これが中々どうして内容が濃いものとなっている。やたら説明的だったり、オーヴァーな演技や感情のぶつかり合いを見慣れている向きには不満かも知れないが、これはこの映画のスタイルなのである。この世界を出しているのは演出だけではなく役者達の作り出す演技であり、言うまでもなくこの役者たちの存在感が映画の1つの見所となっている。


寡黙な殺し屋役に挑戦したハンクスは、事前の予想を裏切って悪くない。一見、何を考えているのか分からない男だが、映画全体が息子の視点から描かれているので、このアプローチは大成功だ。幼い息子にとっての偉大な、そして畏怖すべき謎めいた存在として、また家庭人の顔を持つ殺し屋を見事に演じている。彼の持つ庶民性が、飽くまでも”職業としての”殺し屋として浮き立っているのが面白い。ハンクスのキャリアの中でも特筆すべき役柄ではないだろうか。


ポール・ニューマンは若い頃の反抗期的演技とは変わり、すっかり枯れた味わいで、これもまた素晴らしい。2人の息子を巡るトラブルに打ちひしがれていく父となっていく様が余りに自然で圧巻だ。この映画のハイライトは彼が登場している数々場面と言っても過言ではないが、それでも序盤ではもっとパワフルなドンであって欲しかった。


組織がサリヴァンに差し向ける死体写真屋兼殺し屋のジュード・ロウは、凝ったメイクにあっと驚くヘアスタイルで登場。少々やり過ぎの感もあるが、先の2人と違っていかにも作り上げた役柄が楽しい。異様な役柄で映画の中で強烈なアクセントを放っている。


メンデスの演出は全体に格調高いもの。技巧と省略を生かしたスタイルも上手くいっている。時折、映画ではなく舞台演出のような窮屈さを感じるときもあるし、気取った感じもあるが、アクション場面の迫力など堂に入ったもの。それでも暴力描写を強調することなく、演出の焦点は幾組もの親子の愛憎入り混じったミニマルな感情に絞られている。その為、『ゴッドファーザー・シリーズ』のようなスケール感を期待すると肩透かしを食らうだろう。また、後半に進むに従って作品の持つパワーがトーン・ダウンしてしまうのが非常に勿体無い。それでも、タイトル通りに”破滅への道”(拝一刀ならば「冥府魔道」か)を進む男たちをがっちり描いた硬質な手触りは魅力的だ。


この映画のミニマルな様式美は、巨匠コンラッド・L・ホールによる撮影技術によるところも大きい(これが遺作)。全てのショットに意匠が払われ、無駄な映像や構図は無く、精緻の極みである。繰り返し登場する夜の雨中の美しさも特筆もので、そこで繰り広げられる殺戮は全てを闇に閉じ込め、同時に登場人物の心の闇を浮かび上がらせている。影を強調したライティングと効果的な移動撮影も全く見事。撮影監督としては完璧な仕事振りだ。またジル・ビルコックによる編集も1秒たりとも無駄が無く、映像面に関しては高度な技術に支えられた映画なのだ。トーマス・ニューマンによるアイリッシュ・テイストな哀調溢れる音楽も、闇に生きた男たちの世界を彩っている。


ロード・トゥ・パーディション
Road to Perdition

  • 2002年 / アメリカ / カラー / 119分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for violence and language.
  • 劇場公開日:2002.10.5.
  • 鑑賞日時:2002.9.28.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズつきみ野6 ドルビーデジタルでの上映。先行上映、土曜夕方の回。199席の劇場は3割程度の入り。この劇場はこの入りで、この先本当に大丈夫なのだろうか・・・。
  • パンフレットは500円。最近では値段相応か。プロダクション・ノートが4ページある。
  • 公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/roadtoperdition/ パンフレットと同内容のプロダクション・ノート、予告編、壁紙、撮影現場の様子写真など。かなりデザイン的に凝ったサイトで、映画会社の力の入れようも分かるというもの。