ピンポン


★film rating: C+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


卓球に関しては天才肌のペコ(窪塚洋介)と、才能はあるのに出し切らないスマイル(ARATA)。その2人の高校生の自らの才能と努力に対するアプローチを描く、松本大洋の同名コミックを映画化した作品。


原作は未読なので映画との比較は出来ないが、作り手は原作をかなり意識したであろうことは容易に分かる。それは演技や台詞、映像などに如実に表れている。しかしそれが映画として良いのかは全くの別問題だ。


映画はほぼ若手を起用したキャスティングになっている。その若手達の演技が見ていてこそばゆい感覚に襲われるのは、劇映画としてこなれていないから。窪塚の台詞回し・表情・動作や、ARATAステレオタイプな内気演技は、観るに耐えないあくどさ。役者として役柄を掘り下げることを放棄して、単に漫画の模倣をやっているにしか過ぎない。その結果、タダでさえ希薄な役者としての肉体の存在が、余計に強調されてしまった。これに比べると周りの助演陣はまだマシだが、夏木マリといったヴェテランまでもが漫画演技に汚染されているのは如何なものだろうか。


宮藤官九郎の脚本も、曽根文彦の演出も、原作=漫画を意識し過ぎて、映画としてどうあるべきかを見失っている。才能と努力といった面白いテーマを生かすことなく、上っ面を描いているだけ。只々、漫画であろうとしているのだ。内容も役者の肉体も薄いスポーツ映画を、スポーツ映画と呼ぶにはかなりためらいがあるのが実感だ。


特に突っ込みが足りないのは、”ヒーロー”とは何か、という点。これが映画のクライマクスに掛かってくるのに、それまでを安易な映像で描写し、そのまま何の説明もせずにラストまで持ち込もうとする図々しさ。そこには、現実社会を舞台にして、それなりのリアリズムで描いてきたものを放棄し、なし崩し的に観客を無理やり納得させようとする傲慢さが見えるだけだ。結果的に、映画の無内容振りを余計に象徴することになってしまった。


演出は映像的にそれなりに工夫していて、時折センスを感じさせるものもある。それにしても全体を通す線が細いし、何よりスポーツのカタルシスが描けていない。また、時折ギャグも挿入されて笑いを誘おうとするが、これが全く面白く無いとはお寒い限り。加えてCGを多用する為にデジタル・ヴィデオ・キャメラで撮影していて、このフラットな映像が映画の空虚さを浮き立たせているのが何とも皮肉だろう。


唯一の救いは、この危なっかしい環境の中で竹中直人ただ1人が観ていて安心出来ること。たまにやり過ぎコメディ演技もあるにせよ、それはこの映画の他の要素と比べたら僅かな瑕疵だ。全体には落ち着いた演技を見せてくれるのが、一服の清涼剤となっている。


弾まないスポーツ映画、それが『ピンポン』だ。


ピンポン
Ping Pong

  • 2002年 / 日本 / カラー / 114分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):不明
  • 劇場公開日:2002.7.19.
  • 鑑賞日時:2002.8.13.
  • 劇場:テアトル新宿/ドルビーデジタルでの上映。お盆休みの火曜午後一の回、お盆休みの218席の劇場は満席。2時間前の整理券を入手して良かった、という盛況だった。
  • パンフレットは700円。監督インタヴュー、松本大洋の紹介、サウンド・トラック紹介、プロダクション・ノート等、詳細な内容は資料価値あり。それにしても劇中の写真が汚い。ジャギーが目立つデジタル映像は、パンフレットの質をかなり落としています。
  • 公式サイト:http://pingpong.asmik-ace.co.jp/ 登場人物紹介、予告編、壁紙など。