タイムマシン


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

目の前で婚約者を殺された事実を過去に遡って変えるべく、タイムマシンを開発した19世紀末の科学者。しかし悲劇は変えられなかった。彼はその理由を知る知恵者に会うべく未来に向かうが、80万年後の地球は文明が破壊された世界へと変貌していた。そこは地上には原始社会と化した人類イーロイが、地下に住む支配者モーロック族の恐怖に怯えている世界だったのだ・・・。


子供の時分、ジュール・ヴェルヌH・G・ウェルズのどちらが好きだったかと言えば、断然ヴェルヌだった。『海底二万里』『神秘の島』『八十日間世界一周』『月世界旅行』『地底探検』と、科学や技術の先見性に富んだ想像力豊かな作風は、子供心を大いに喜ばせたものだ。対するウェルズは科学や技術についての皮肉や警鐘など、ちょっと単純には楽しめない内容。そのH・G・ウェルズの名作短編を映画化したジョージ・パル監督の名作『タイムマシン/80万年後の世界へ』(1959)のリメイクが、ドリームワークス製作の大作として蘇った。監督のサイモン・ウェルズは偶然にもH・Gの曾孫だそうだが、それとは関係無くアニメーション映画の経歴を買われて起用されたらしい。その起用は視覚面では大当たり。特撮も単なる垂れ流しではなく、効果的な見せ方で使われていた。


見ものはやはり驚異的な時間旅行の特撮だ。タイムマシンの周りの時間がもの凄い勢いで流れていく映像が素晴らしい。建物が変わるだけではなく、地形までも大きく変わる様は圧巻だ。オリジナル版ではショーウィンドウ内のマネキンが着ている服で時間の流れを表現していた有名な場面があった。それへのオマージュもちゃんとある。
オマージュと言えば、パル版の有名なクラシカルな雰囲気を残しつつ、最近の映画らしいフォルムも持たせたタイムマシンのデザインもそうだろう。これも秀逸だ。2030年に登場する図書館のデータベースはアイディアも面白いし、コンセプトが魅力的に見せている見本のようなものだ。そんな訳で視覚面では大いに魅力的な作品なのである。


都市が消滅して、大自然と化した80万年後のマンハッタンに舞台が移る後半は、未来にて圧制者たる猿人間に対してひ弱な人間を率いて立ち上がる主人公、という図式。ティム・バートン版『PLANET OF THE APES/猿の惑星』(2001)と同じかいな、と思わせる。これはウェルズの原作からしてそうなのだからやむを得ないが、新鮮味に欠ける展開だろう。今思うとバートン版『猿の惑星』はジョージ・パルへのオマージュだったのかも。しかし今回の映画ではイーロイ対モーロックの戦闘場面なぞは無く、ちょっと予想と違った展開で一安心か。まぁ、この都合の良いときに都合の良い手段で解決するのも昔のSF映画っぽくて、僕なんぞはかえって安心してしまうのだけど。


主人公を演じるのはガイ・ピアース。『メメント』(2000)でも時間に翻弄されていたのに、またしても!というキャスティングが何となく可笑しい。最初はオタクっぽい学者が後半は面構えの逞しい男に変身、ピアース自身は違和感無く演じている。モーロック族の知能階級を演じるのはジェレミー・アイアンズ。何だかすっかりイロモノ俳優と化して哀れを誘っていて、要は彼のデカダンでナルシスティックな雰囲気を生かす映画が無いのだろう。特殊メイクでゴテゴテとした白塗り未来人を割りとまともに演じている。ピアースと対峙する場面ではもっと哲学的な台詞があっても良かったと思うが、程々なのが娯楽作、か。


音楽はハンス・ジマー率いるメディア・ヴェンチャーズの一員でもあるクラウス・バデルト。メディア・ヴェンチャーズらしくメロディ・ラインが弱いのが残念だが、全体には映像が映えるスケールの大きなオケとコーラスの曲を付けている。


過去に決別し未来を見据えようとするラストは結構清々しいし、映画全体もそう退屈しない。でもジョン・ローガンの脚本にはかなり問題がある。


ウェルズらしい皮肉や風刺がすっぽり抜け落ちているのは、大衆受けを狙ってのことだろう。娯楽に徹していると言えば聞こえが良いが、その受けを狙った部分が今一つ上手く改変されているようには思えない。


例えば婚約者を殺された過去を変えるべく執念で作ったタイムマシンでの時間旅行だが、1回だけ救うのを失敗したからと言って、”何故過去を変えられないんだ”と未来旅行に話が飛ぶのか、全く理由が分からない。何度も試さないのは何故なのだ。まぁ何度もやって駄目だったらブラックコメディになってしまうのだろう。そもそもラヴストーリーじゃないけれど、そういった観客の同情を引く要素を加えたのがかえって裏目に出ているのだ。また、いつのまにやら婚約者を救う執念はどこへやら、映画の後半はモーロックとの闘いに雪崩れ込んでしまう。


別に後半がアクションになるのは構わないが、主人公の心情の流れが描かれていない為に説得力に欠けている。この場当たり的展開が如何にも脚本のまずさを物語っている。


但し、96分という最近のSF大作の中では短い上映時間をテンポ良く進んでいくので、左程退屈することはない。相当にご都合主義な部分はあるものの、豪華な映像を眺めるだけの娯楽SFだ、と割り切って初めて観られる映画だ。


タイムマシン
The Time Machine

  • 2002年 / アメリカ / カラー / 96分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense sequences of action violence.
  • 劇場公開日:2002.7.20.
  • 鑑賞日時:2002.8.3.
  • 劇場:渋谷東急2/ドルビーデジタルでの上映。公開2週目土曜朝一の回、381席の劇場は5割程度の入り。公開初日は立ち見で断念したので、リトライであった。
  • パンフレットは600円。時間旅行に関する考察や、過去の時間旅行SF映画の紹介など、結構力の入ったものです。
  • 公式サイト:http://www.timemachine-movie.jp/ 予告編、壁紙など。接続する度に、Total Access Timeが表示される面白い仕掛けになっています。