ゴースト・オブ・マーズ


★film rating: C
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

テラフォーミング(地球化)が進んだ21世紀の火星の炭鉱にて、古代遺跡の封印が解かれた。遺跡奥からの謎の赤い霧に乗り移られた炭鉱夫たちは凶暴化、自らの肉体を傷付けるパンクゾンビとなり、他の住民の首をはね出す。たまたま囚人護送の為に訪れた警官たちは警察署に立て篭もり、ゾンビ軍団相手に闘うことになる。


あわやオクラ入りかと思われたジョン・カーペンター監督のSF+ホラー+アクションの新作は、自身の過去の作品のゴッタ煮的な展開で進む。


封印を解くと、凶暴化した人間がゾンビのようになって襲い掛かるのは『パラダイム』(1987)、霧が襲ってくるのは『ザ・フォッグ』(1980)、警察に立て篭もり、牢屋にいた札付き囚人と共に凶暴化した群集相手に闘うのは『要塞警察』(1976)だ。宇宙人が人間にとりつくのは『遊星からの物体X』(1982)か。カーペンター・ファンは狂喜するのだろうが、正直言って歳と共に味わいが伴ってワインになる訳でもなく、単なる酢になってしまっている演出は観ていて寂しいものがある。相変わらず進歩とか進化とは縁が無く、フラッシュバックを多用した場面転換も意味が無く、編集は下手、人間ドラマも特筆するものはない。画面は殺戮と血しぶきに埋め尽くされていて、殺伐とした雰囲気だけは十分にあり、少しはハラハラさせられる部分もあるにはあるが、全体には別段怖くはないホラー映画。舞台も火星の植民地という壮大な設定の筈なのに、よくよく考えると殆ど50m四方に限定されているという安普請さも泣かせる。客観的に見れば、どう転んでも出来の良い映画ではない。


しかし相当に偏狭な目で見れば、そういった部分が独特の味わいをもたらしているのも確かだ。


いつも通りに自作の音楽はいつものベンベン節、そこにスティーヴ・ヴァイアンスラックスらが参加してハードなギターバトルと化し、パンクなゾンビを盛り立てる。何しろ、うがうが意味不明の唸り声を上げるゾンビのボスからして、マリリン・マンソンそっくりなのだから笑えるじゃないか。


プロダクションは安普請でも、Bクラスの馴染みある顔触れをずらり揃えたのが楽しみを与えてくれている。主人公の保安官にナターシャ・ヘンストリッジ(『スピーシーズ種の起源』(1995))、囚人にアイス・キューブ(『スリー・キングス』(1999))、護送官リーダーにパム・グリア(『ジャッキー・ブラウン』(1997))、護送官にジェイソン・ステイサム(『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998))やクレア・デュヴァル(『パラサイト』(1998))、植民地の生き残りの博士にジョアンナ・キャシディ(『ブレードランナー』(1982))。この分かる人には分かる妙に豪華なキャスティングな上に、Bクラスの役者ばかりゆえ誰が生き残るか予測不可能という、ホラーならではの不謹慎な楽しみ方もある。


役者で1番光っているのはアイス・キューブで、不敵だが悪人でないと思わせる個性がぴったりだ。回し蹴りまで見せるナターシャも奮闘しているけど、もう少し線の太い演技が欲しいところだった。


スタッフも身内で固め、内容も過去の焼き直し、これで喜ぶのはよほどのマニアぐらい。活劇調のラストでニヤリと出来るくらい大らかな気持ちでないと、この映画は楽しめないだろう。観客を相当選ぶ映画でもある。


ゴースト・オブ・マーズ
Ghosts of Mars

  • 2001年 / アメリカ / カラー / 98分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for strong violence/gore, language and some drug content.
  • 劇場公開日:2002.7.13.
  • 鑑賞日時:2002.7.26.
  • 劇場:シブヤ・シネマ・ソサエティ/ドルビーデジタルでの上映。公開2週目の金曜真昼の回、104席の劇場は20人弱の入り。入り口には映画で使われたゾンビ住民の衣装が3人分飾られていた。
  • パンフレットは300円。と言っても本当のパンフレットではなく、マスコミ向けプレスキットのよう。各界からのコメント、スタッフ&キャスト紹介、監督論など表紙込みで8ページです。
  • 公式サイト(北米):http://www.sonypictures.com/movies/ghostsofmars/ 日本版公式サイトはありませんでした。Flash使いまくりで、デザインもかなり凝ったサイト。