チョコレート


★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


人生の岐路で出会った白人男性と黒人女性。男は、女の夫の死刑執行を行った看守だった・・・。


映画の前半でじっくり描かれているのは各人の過酷な人生模様だ。ハンク(ビリー・ボブ・ソーントン)の家は人種差別主義者の父親(ピーター・ボイル)の支配が色濃く、息子ソニーヒース・レジャー)との仲もうまくいっていない。3代続けての刑務所看守である一家では、どうやら母親とハンクの妻は自殺したらしく、それが暗い影を投げかけている。


レティシアハリー・ベリー)は肥満の息子と2人暮し。死刑囚の夫ローレンス(ショーン・コムズ)は10年以上も刑務所にいる。彼女はウェイトレスをしながら貧困の最中で生きていて、人生に疲れ切っている。


ラヴ・ストーリーとして宣伝されているこの映画、リアルな男女関係の描写は確かに優れているが、それ以上に人間ドラマとして見応えがある。前半はハンクとレティシアのそれぞれの家族を、重苦しいまでにじっくりと描いていて、例えばそれが死刑執行の間際に見せるソニーとローレンスの行動だったり、レティシアと息子の行動だったりで、現実味を持たせている。観客の前に提示されるのは、彼ら全員は家族と共にいるのに、それぞれが孤独の中で生きているということなのだ。


映画は2人の男女に新たな人生を与える。偶然にも出会ったハンクとレティシアは互いに激しく求め合い、”性”を”生”として実感するのがリアルだ。この後にラブ・ストーリーとして展開していくのは当然で、2人がそれまでの自分の人生に決着を付け、未来に生きようとする姿は静かな力強さが感じられ、非常に見応えがある。


基本的にミロ・アディカとウィル・ロコスの脚本は作り過ぎで、ご都合主義で安易な展開が目立つ。しかしそれを帳消しにしているのが役者の演技だ。演技が作り出す濃密な時間を観られるのがこの映画最大の見所と言えよう。


ビリー・ボブ・ソーントンは、寡黙で自らの感情を押し殺して生きてきた男を大袈裟にならずに演じていて、これが全く素晴らしい。台詞ではなく、微妙な表情や仕草でハンクの人生を表現していて、その背景までもが透けて見えるようだ。でこぼこした個性的な顔にわずか漏れ出る感情のひだには思わず見入ってしまう。一方のハリー・ベリーはモデル顔のルックスを捨てて熱演、ソーントンとの対照が良い。彼女の熱い演技が、生きることに必死なヒロインに重なるようで見応えがある。さらには文字通り裸体をさらすからだけではなく、2人の存在感のある肉体が映画に化学反応を起こしている。


脇役の演技も重みがある。ピーター・ボイルはさすが大ヴェテラン、憎しみと蔑みにまみれて生きてきた男を演じていて見事だし、ヒース・レジャーも若さの余り人生に対処出来ない青年を演じていて印象的だ。


彼らの名演を引き出し、余計な説明を省き、声高でなく抑制された静かな語り口をフィルムに焼き付けた、カナダの新鋭マーク・フォスター監督の演出も素晴らしい。人種・貧困・恋愛など、様々なテーマを持ち合わせている作品なのに、不必要に重々しくせず、飽くまでさらりと描いている。しかも主人公2人を突き放しているのではなく、節度のある距離と視線で見守っていて、それがキャメラワークにも現れている。それがこの作品にかすかな暖かみを与えているのだ。 またアッシュ&スペンサーの音楽はメロディは印象に残らないが、でしゃばらず、不思議で面白い。映画の印象度に一役買っている。


映画のラストは明快ではないが、役者の表情でその後の物語を想像出来る為に、より一層真摯で印象深く感じられる。これは秀作だ。


チョコレート
Monster's Ball

  • 2001年 / アメリカ / カラー / 113分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):R-18指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong sexual content, language and violence. (Edited Version)
  • 劇場公開日:2000.7.20.
  • 鑑賞日時:2002.7.26.
  • 劇場:日比谷シャンテ・シネ1/ドルビーデジタルでの上映。公開2週目朝1の回、226席の劇場は若干の立ち見も出る盛況。東宝洋画系の劇場は、金曜初回が1,300円均一なんだよね。
  • パンフレットは700円。主役2人や来日した監督インタヴューなど。
  • 公式サイト:http://www.gaga.ne.jp/chocolate/ スタッフ&キャストの簡単な紹介、予告編、BBSなど。