スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

物語は前作の10年後。青年に成長したジェダイのアナキン(ヘイデン・クリステンセン)と元女王アミダラ(ナタリー・ポートマン)は再会、早速2人は恋に落ちる。一方、共和国連邦の裏では大きな陰謀が進行し、アナキンの師匠オビ=ワン(ユアン・マクレガー)は真相を突き止めようとするが・・・。


3年待った甲斐があったというもの。『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』は前作の『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』(1999)を上回る出来栄えだ。


前作での個人的な不満があるとしたら、少年が主役とはいえ展開のご都合主義が余りに子供っぽかったりとか、ジャージャーが面白く無いのにうるさいとか、だった。『エピソード2』ではその点はクリアしている。特にジャージャーは後の展開に重要な布石となる発言場面があったりで、扱いがかなり可哀相な気さえする。


旧3部作との明らかな違いは、あちらが単純明快に善玉悪玉同士の戦いをメインに描いていたのに対し、新3部作は政治陰謀劇である点だ。混沌からの脱出を描いていたとも言い換えられた旧作と対照的に、混沌への突入という悲劇的物語ゆえの宿命だろう。それゆえに物語が複雑になり、明快さと高揚感では旧3部作に劣っているのだ。


本作の物語位置としては、前作の”そもそもの物語の始まり”から、観客が既に知っている旧3部作との橋渡し一歩手前に当たる。映像的にも物語的にも、「後にああなるのか」と予想が付くものが幾多も登場して、段々と馴染みやすくなってきた。
観客が既に知っている結末でいながら意外な展開や映像で観客を楽しませる、というのは作り手にとって相当に重い足枷のはず。ジョージ・ルーカスも楽々とはやり遂げていないが、終始観客の注意を引っ張ることに成功している。


やれルーカスの演出は相変わらず下手だの、恋愛ドラマのセンスが古臭いだのという批判もあるが、昔からこんなものと割り切れば左程気にはならない。上映時間2時間22分はシリーズ最長なのに、物語の密度が濃いのでテンポもシリーズ最高に速くなり、ついでに恋愛ドラマに必要な情感も欠けているきらいはある。それでも多少の不満など蹴散らすが如く最後の40分間に繰り広げられる展開は、「これぞ連続活劇だ!」とばかりにアクション&スペクタクルのつるべ打ち。特に待ちに待ったジェダイたちの大チャンバラと、ついに”彼”の偉大なる戦士としての姿も初めて観られる。これだけでも劇場で観る価値があろうというものだ。


前作でジェダイ・マスターの弟子パダワンだったオビ=ワンも、今回はマスターとしての登場なので、演ずるユアン・マクレガーもちょっと風格が出てきた。これは収穫だ。一部メディアで叩かれているヘイデン・クリステンセンは言われるほどひどくは無いし、むしろ有り余る才気と若さゆえの傲慢さを無難に演じている。美しく成長した相手役ナタリー・ポートマンとの若き美男美女の恋も、思っていたほどひどくない。この2人の相性だって悪く無い。


クリストファー・リー演ずるシスの暗黒卿はさすがに素晴らしい存在感。『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)と役柄もダブっているのは面白い偶然だろう。美しくも貫禄ある低い声から発せられるオーラは、迫力と威厳に満ちている。


イギリスのハマー・フィルム社での怪奇映画スターとして鳴らした彼の代表作は、勿論『吸血鬼ドラキュラ』(1958)。カラー撮影も美しい傑作だ。リー演じるドラキュラ伯爵を追い詰める宿敵ヴァン・ヘルシング教授は、やはりハマーのスター、ピーター・カッシングだった。この2人は共演作も多いのだが、『エピソード4/新しき希望』(1977)ではデス・スターの司令官をピーター・カッシングが演じていて、今回のリーの起用はそこいら辺とリンクさせているのは間違い無いだろう。こういった読み方で面白がられるのも、このシリーズの楽しさの1つだ。期待していたリーが素晴らしかったので、嬉しさひとしおだった。


一方、ジョン・ウィリアムズの音楽は期待程ではなかった。今回初登場の愛のテーマは悲壮で美しい旋律、メロディ・メイカーらしい仕事振りだ。しかし、この場面で何故この曲を付けるんだとか、この曲で説明しなくても画面を見れば分かるだろうが、などと気になった個所も目立った。曲単体で聴けば素晴らしいのだろうが、映像と音楽のシンクロという点では新3部作は明らかに旧3部作より質が落ちている。それがウィリアムズの力加減なのか、編集により切り刻まれた結果なのかは分からない。


全編ハイヴィジョン・デジタル・キャメラ撮影による映像は、フィルム上映だったので評価しづらいものもあった。クリアで人工的なルックは、映像の殆どがデジタル加工されたためだろうが、一部ピントが甘く感じたり、ノイズっぽく感じるときがあった。デジタル撮影の真価はDLP上映で確認するしかないのだろう。


ジョージ・ルーカスは言うまでも無く過去志向が非常に強いフィルム・メイカーである。過去の映画や、過去の世界の再現が多いのが特徴だ。現にこのシリーズは、フラッシュ・ゴードンに代表されるようなスペース・オペラを現代に蘇らせたものなのだから。僕なぞ新作の『スター・ウォーズ』を観るたびに、両親にこのシリーズ最初の作品を観に連れて行ってもらったあのときのことを思い出したりする。最新技術を駆使した過去志向の映画が、観客を過去に連れ戻してくれるのは面白い。


25年もの間楽しませてくれたこのシリーズも、残り1作になった。思いっきり悲劇的な展開になるのは予想が付くが、それでも3年後を楽しみに待とうではないか。過去を待つように。


スター・ウォーズ エピソード2 クローンの攻撃
Star Wars: Episode II - Attack of the Clones

  • 2002年 / アメリカ / カラー / 142分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG for sustained sequences of sci-fi action/violence.
  • 劇場公開日:2002.7.13.
  • 鑑賞日時:2002.7.6.、2002.7.12.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘9、ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1/それぞれドルビーデジタル、ドルビーEXでの上映。先行上映の土曜夜7時15分からの回は240席の劇場は満席、カウントダウン上映は金曜深夜0時(実質土曜0時)の回、452席は6部の入りだった。
  • オールカラーで豪華なパンフレットは800円。前半は物語紹介、人物や世界の設定紹介、後半はプロダクション・ノートなどの製作紹介にページが費やされています。批評文なぞはなく、ひたすら映画の解説に徹しています。
  • 公式サイト:http://www.starwars.com/ 『エピソードI』のときは日本語ページもあったと思うのですが・・・。英語のみ。
    • 公式サイトその2:http://www.foxjapan.com/movies/episode2/ 配給会社20世紀フォックスのサイト。上映劇場リスト、来日記者会見と試写会リポートしかありません。SWはフォックス製作ではなく、ルーカスが自分で資金を集めて自分の会社で作っているいわゆる”インディーズ映画”、しかもルーカス側のライセンスが厳しいので、こんな事態になっているのかも・・・。