ワンス・アンド・フォーエバー


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


1965年に起こったアメリカ軍と北ヴェトナム軍の最初の本格的戦闘を描いた作品は、冒頭の場面でヴェトナム軍を一方的に悪役に貶めるかのように見え、何やらいかがわしげな雰囲気を漂わせる。何せこの映画の監督・脚本は、『パール・ハーバー』(2001)という好戦的映画の脚本家であるランドール・ウォレスだ。タダでさえ”ダマされないぞ”と身構えていたのに、これでは余計に身構えてしまう。


映画は前半でメル・ギブソン演ずるハル・ムーア中佐が兵士達を鍛え上げる描写に殆どを費やし、後半はイアン・ドラン渓谷の戦いの描写が中心になる。前半でのメルはもちろん優秀な軍人であり、統率力のある指揮官であり、思いやりと人望のある上司であり、妻ジュリー(マデリーン・ストウ)や子供たちにとって理想的な家庭人として描かれている。事前の予想の範疇にある人物だ。しかし意外なことに、密かに恐怖を抱く男としても描かれている。冒頭でヴェトナム軍によって全滅させられたフランス軍(かつてヴェトナムはフランスの統治下にあった)の現場写真や、ネイティヴ・アメリカンによって全滅させられたカスター将軍率いた第七騎兵隊の文献を眺め、自分も同じ道を歩むことになるのではと不安にかられるのだ。


このことから、どうやらウォレスはこの作品に『パトリオット』『パール・ハーバー』に徹底的に欠けていた、リアルな人間性を織り込もうと意図していることが分かる。


後半に描かれる戦闘場面は、映像や音響の激しさもさることながら、印象に残るのはアメリカ兵たち、母国に残された不安な面持ちの妻たち、そして当然のことながら人間であるヴェトナム兵たちの姿。皆、不安と恐怖と闘っているのだ。


妻たちの描写は、単に夫の死亡通知を受け取って泣き崩れるとかではない。軍の不手際により死亡通知をコミュニティの仲間である女たちに配り歩くジュリーの場面に、実際に殺しあわなくとも妻たちにとっても戦争であったということが明確に表現されている。


画期的だったのはヴェトナム軍の描写で、冒頭の場面で”ヴェトナム憎し”と思わせておきながら、映画の途中でその先入観をひっくり返してしまう。アメリカ側に比べて時間は短いものの、顔のある人間として描かれているのはハリウッドのメジャー映画では初めてではないだろうか。故郷に妻を残し、日記に彼女の写真を挟み込んでいたのは、何もアメリカ兵だけではないのだ。司令官アン中佐(ドン・ズオン)も優秀な軍人として描かれていて、得体の知れないゲリラ戦法の軍隊という固定観念を切り捨てている。


ウォレスの演出や脚本は時折陳腐な面も出てくるものの、全体に力が入ったものだ。これを観ると、『パール・ハーバー』は単なる小遣い稼ぎだったのかね、と勘繰りたくなる。特に演出家としては『仮面の男』(1998)に比べて格段の進歩を遂げていて、滑らかでなくとも人間ドラマも意外やしっかりしていて観客の心を捉えることに成功、アクション場面の撮り方も上達している。但しこちらの心の奥底まで届くには至っていないのは、時折表面的にしか人間を捉えていないときがあるからだろう。


メルは力演、ヘリコプター・パイロット役のグレッグ・キニアは儲け役だ。マデリーン・ストウはルックスばかりで役には余り恵まれていない女優だったが、今回は静かに熱のこもった演技を見せる。『プライベート・ライアン』(1998)で優秀なスナイパーを演じていたバリー・ペッパーが、今回は兵士でなく原作者である記者役とは意表を付いたキャスティング。いい意味で観客の期待を裏切るという、作品のコンセプトの1つなのかも。


ワンス・アンド・フォーエバー
We Were Soldiers

  • 2002年 / アメリカ / カラー / 138分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for sustained sequences of graphic war violence, and for language.
  • 劇場公開日:2002.6.22.
  • 鑑賞日時:2002.6.27.
  • 劇場:渋谷ジョイシネマ/ドルビーデジタルでの上映。公開1週目の平日木曜昼の回。232席の劇場は6割程度の入り。
  • パンフレットは500円。各俳優が演じた実在の人物についてのコメント集や、原作者インタヴュー、ベトナム戦争全貌やイアン・ドランの戦いについてなど、文章は充実した出来映え。製本も凝っているし、この価格でこの内容ならば文句無し。
  • 公式サイト:http://www.once-jp.com/ パンフレット同様のスタッフ&キャスト紹介などに加えて、妻から夫への手紙の実物、妻たちや原作者ジョー・ギャロウェイ、メル・ギブソンやハル・ムーアらのインタヴュー映像、ジョー・ギャロウェイが撮った実際の写真など。インターネットならではのコンテンツが充実。