マジェスティック


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

赤狩りの嵐吹き荒れる1951年のハリウッド。新進脚本家のピーター(ジム・キャリー)は共産主義者の汚名を着せられ、やけ酒から事故を起こして河に転落し、見知らぬ町に流れ着く。記憶を失った彼は、戦争で死んだと思われた青年ルークに瓜二つだった為、ルークとして迎えられるが・・・。


2本のスティーヴン・キング作品の映画化、つまり『ショーシャンクの空に』(1994)、『グリーンマイル』(1999)を監督して好評だったフランク・ダラボン3本目の作品は、マイケル・スローンのオリジナル脚本によるもの。世評と違って先の2本もそれ程評価していない僕としては事前に危惧するものがあった。


舞台となる町は、戦争で若者の多くを失っている。残されたのは老人と女性。そこに帰ってきた主人公は英雄なのだ。息子であるルークの帰還により元気を取り戻した老人は、かつてはロードショー館で今や廃屋となった映画館マジェスティック再建に動き出す。ルークが戻ることにより、文字通り町に活気が戻るのだ。


ルークの恋人だったアデル(ローリー・ホールデン)との恋愛も絡め、町の住人の善意が観客の心をほだそうとする。


演技の面では劇中で素晴らしい瞬間を幾度も目にできる。ジム・キャリーは『トゥルーマン・ショー』(1998)に比べると”時折お笑い演技が出そう”なこともなく、また人間の強さ・弱さを誠実に演じていて好感が持てた。冒頭の顔のアップが延々続くショットで”これは行ける”と、画面の彼に信頼を置けたのだ。主人公を息子と信じきっている老人を演じるマーティン・ランドーはさすが。演技も申し分無く、間違い無く心に残る。この2人を中心に、全体に質の高いアンサンブル演技が見られる。


映画全体をノスタルジックなものとするプロダクション・デザインは質が高い。衣装やセットなど、どれも非常に良くできている。また、マーク・アイシャムによるジャジーなスコアもフュージョン・ミュージシャンとしての本領発揮、選曲もセンスが良く、聴いていてで心地よいものになっている。


しかし映画自体のできはというと、ダラボン作品なので危惧していた通り、とにかく全体が甘ったる過ぎる。住人たちは殆ど善人、中にはルークを嫌っていた男も登場するが、予想通りに心を入れ替える展開。一方、脚本家ピーターを追い詰めんとする赤狩りメンバーは、委員長役ハル・ホルブルックも含めて強面揃い。善悪の描き方が単純かつ浅薄でリアリティに欠ける。この甘味料たっぷりの2時間半は長い。観ているだけで烏龍茶が欲しくなる。この上映時間で通したいのであれば酸味や辛味も欲しいところ、でなかったらせめて40分は削るべきだった。話の展開が容易に予想できるのは、本来ならば決してマイナスではない。しかし全体がこんな感じなので、泣かせようとしたり笑わせようとしたりする場面でも、わざとらしかったり先が読めたりで白けてしまう。


この世知辛い世の中だから、往年の名監督フランク・キャプラ(『スミス都に行く』(1939)、『素晴らしき哉、人生!』(1946)など)の再現を、という気持ちは分かるが、現代の映画においてこの描き方はファンタシーとしてももはや時代遅れ。締めるところを締めないと、笑いと感動の押し売りを垂れ流すだけなのだ。


マジェスティック
The Majestic

  • 2001年 / アメリカ / カラー / 152分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG for language and mild thematic elements.
  • 劇場公開日:2002.6.22.
  • 鑑賞日時:2002.6.26.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘3/ドルビーデジタルでの上映。公開5日目、平日水曜昼の回。237席の劇場は女性半額のレディスデイということで、殆どが女性観客で6割程度の入り。ワーナー映画なので、お正月映画の目玉の1本『ハリー・ポッターと秘密の部屋』予告編が観られました。
  • パンフレットは600円。スタッフ&キャスト紹介、評論文、プロダクション・ノート、クレジット完全収録等、資料価値は十分。オールカラーも良い。
  • 公式サイト:http://www.themajestic.jp/ インタヴュー、スタッフ&キャストなどはパンフレットと同じ。予告編、壁紙、ワーナーの新作予告編など。面白いのは、映画館マジェスティック再建署名運動があること。再建されるとスペシャル映像が見られるらしい・・・。
  • ところで、劇中の冒険活劇映画に登場する秘宝が、『レイダース/失われたアーク』(1981)の冒頭に登場したものなんですよね。エンドクレジットで目を凝らしていたら、”本物”の小道具を使ったようです。ダラボンはルーカスの人脈にも繋がるし、つい先日も『インディ4』の脚本家として決まったようですね。